中国による尖閣諸島奪取、東シナ海支配に向けた動きは、最終段階へと突入した。
5月8日、中国海警局の5千トン級の警備船「2501」をはじめ4隻の警備船が尖閣諸島周辺の日本領海に侵入し、そのうち2隻が与那国漁協所属の漁船を追尾したのだ。中国の警備船は9日も領海に侵入し、海上保安庁の退去勧告を無視して、翌日まで滞在を続けた。連続3日間、領海へ侵入し、漁船に脅威を与えた行為は、無害通航の範囲を逸脱した「領海侵犯」である。
日本政府の電話による抗議は中国政府に何の影響も与えないだろう。諸外国からも、中国警備船が日本の領海を侵したとは認識されていないのだ。
漁船追尾は「日本の施政下」を否定
5月11日、中国外務省の趙立堅副報道局長は記者会見で、日本漁船が中国の領海内で不法操業をしていたので排除したとか、中国警備船は海保の妨害に立ち向かったといった趣旨の発言をした。
つまり、中国海警が中国の領海内で中国の法を執行したというのだ。これは尖閣諸島における日本の主権の否定であり、同諸島は日本の施政下にないと国際社会に向けて発信したのに等しい。
日本には、領土でありながら施政下にない島が2か所ある。北方四島と竹島だ。この二つの地域が侵略されていても同盟国である米国は日本の支援をしない。それは、日米安全保障条約の適用範囲が「日本国の施政の下にある領域」と規定されているからだ。仮に、国際社会が尖閣諸島を日本の施政下にあると判断しなければ、米国との同盟関係にも制限が与えられることになる。
中国が尖閣諸島の周辺海域に事実上常駐させている警備船団の規模および能力は、既に海上保安庁の巡視船を凌駕している。その様子は、中国中央電視台(CCTV)の国際放送を通し世界中に発信されている。中国は、尖閣諸島を中国の施政下に組み入れ始め、それを世界中に喧伝しているのだ。
尖閣に拠点施設を建設せよ
日本は2010年9月、民主党政権の時代に、尖閣諸島沿岸で海保巡視船に体当たりした中国漁船の船長を処分保留のまま帰国させてしまった。明らかな犯罪行為に対し、司法判断を下せなかったのである。これは、日本の施政を自己否定するような行為だった。
現在でも、尖閣諸島は無人島であり、今後の利用計画もなく、環境保全すらされていない。諸外国から、日本の施政下にあると見えるだろうか。
今すぐにでも、尖閣諸島を明確に施政下に組み入れる行動をしなければならない。最も有効なのは、日本人が島で暮らすことである。国際的な海洋研究や環境保全の拠点施設の建設が有効であると考える。まずは、尖閣諸島周辺で海洋調査を実施すべきだ。
尖閣諸島を堅持することは、沖縄諸島に暮らす人々の生活を守り、東シナ海の漁業の維持につながるのだ。これ以上、対策を先送りにすることは、日本の領土を放棄するに等しい。速やかな政治決断を望む。
筆者:山田吉彦(国基研理事・東海大学教授)
◇
国家基本問題研究所(JINF)「今週の直言」第681回・特別版(2020年5月22日付)を転載しています。