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岸田文雄首相は2月2日、ミクロネシア連邦のパニュエロ大統領と官邸で会談した。南太平洋地域で影響力拡大を図る中国を念頭に、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて協力の強化を確認した。政府が今春にも予定する東京電力福島第1原子力発電所の処理水の海洋放出についても協議した。
パニュエロ氏は会談後の共同記者発表で、海洋放出について「日本の意図を深く信頼しているし、技術力があればわれわれが共有する海の資産、資源は損なわれないと確信している」と述べた。
会談では安全保障理事会の改革を含む国連の機能強化の必要性も申し合わせ、パニュエロ氏は日本の常任理事国入りを支持した。
島嶼国に中国の影
「日本は原発汚染水(処理水)の海洋放出を勝手に始めるべきではない」
中国外務省の汪文斌(おう・ぶんひん)報道官は昨年12月14日の記者会見で、処理水の海洋放出に関してこう強調した。日中両政府が同11月にオンライン形式で開いた「高級事務レベル海洋協議」でも中国側は「島嶼国も懸念している」などと批判を展開した。
政府は令和3年4月、2年後をめどに処理水の海洋放出に着手する方針を決定。多核種除去設備(ALPS)で浄化しても放射性物質トリチウムが残るが、1リットル当たり1500ベクレル未満になるよう海水で薄めて放出する。これは国の放出基準(1リットル当たり6万ベクレル)の40分の1程度、世界保健機関(WHO)が定める飲料水の水質ガイドライン(同1万ベクレル)の7分の1程度の水準だ。
日本政府は国際原子力機関(IAEA)による検証や中国を含む各国政府への説明を重ね、安全性や透明性の確保を図ってきた。だが、中国は対日批判を続け、懸念を拡大させるような動きを見せる。
特に島嶼国の懸念払拭に向けた取り組みは重要な課題だ。ミクロネシア連邦のパニュエロ大統領は昨年9月の国連総会では、処理水放出の方針について「最も深刻な懸念」を表明していた。国際会議の場で同様の懸念を示す島嶼国は後を絶たない。
こうした動きを受け、中国が国際社会で政治的優位に立とうと島嶼国を巻き込んだ情報戦を仕掛けているとの見方もあり、政府内には警戒する声が上がっている。
林芳正外相は同月、ミクロネシア連邦の外相と電話会談し「今後もIAEAをはじめとする国際社会の協力を得て、高い透明性を持って取り組む」と伝えた。このほかにも、政府は各国の在京大使館関係者らに向けた説明会を続けている。
原発の処理水の海洋放出では、風評被害が拡大し、漁業関係者などに影響が及ぶ懸念がある。このため、政府は科学的根拠に基づく説明で各国に理解を求め、風評払拭への取り組みを加速させている。