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日本を代表するヒーロー作品のひとつ「仮面ライダー」シリーズが、4月3日で放送開始から50周年を迎える。「変身!」。巨大な悪の組織に立ち向かう仮面ライダー、その「個」の強さに子供たちはあこがれた。時代とともにそのヒーロー像は、身近で共感しやすいキャラクターに変化。だが「善」と「悪」を問い続ける仮面ライダーの根幹は、令和の今も変わらない。
等身大ヒーローの原型に
「仮面ライダー」の放送が始まったのは沖縄返還協定調印式などがあった昭和46年。主人公は藤岡弘(現・藤岡弘、)演じる本郷猛(ほんごう・たけし)だ。ただ、収録中の藤岡の大けがで、急遽(きゅうきょ)、佐々木剛(たけし)が演じる一文字隼人(いちもんじ・はやと)が仮面ライダー2号に変身し、主役が交代した。一文字の変身ポーズが大ブームを呼び、約2年放送される人気番組となった。
その後、放送されない期間もあったが、平成12年の「クウガ」でテレビシリーズが復活し、現在の「セイバー」まで連続22作が放送されている。仮面ライダーはその後のヒーローものの原型となり、「人造人間キカイダー」や「宇宙刑事」シリーズなど多くの等身大ヒーローが生まれた。
ライダーの「代替わり」は子供たちが夢中になる戦闘シーンの進化でもあった。ほとんどが実写だった昭和時代から、CG(コンピューターグラフィックス)の登場でより多彩に見せられるようになった。「ライダーキック」などの必殺技や背景などにもCGが活用されているという。
キャラは変遷、刑事に社長も
本郷は城南大学の学生だった。昭和時代は「アマゾン」など一部を除き、ほとんどが大学生。しかも頭脳明晰(めいせき)、スポーツ万能という、ヒーローらしい姿が描かれる。一方、平成に入ると、家事手伝い(アギト)やフリーター(555、電王など)などが主人公ライダーに。その後、探偵(W)、刑事(ドライブ)、お笑い芸人で会社社長(ゼロワン)など、その職業がドラマに深く関わるケースも出てきた。
「昭和の主人公は、強く、頼れる存在。だが平成の、特に前半はそうではなくなった」と指摘するのは、仮面ライダーと子供の関係などに関する論文を発表している、香川大大学教育基盤センターの葛城浩一(くずき・こういち)准教授(教育学)だ。
「電王」の野上(のがみ)良太郎は「史上最弱」、「キバ」の紅渡(くれない・わたる)は当初は“引きこもり”だった。「主人公が最初から頼れる存在だと伸びしろが少なく、成長譚として描けない。子供たちに、より共感してもらうための設定だったかもしれない」と話す。
不完全なヒーローの魅力
昭和のシリーズでは「ショッカー」をはじめ、対立する敵組織が描かれていた。ライダーは「個」で立ち向かう。しかし、平成以降は複数のライダーがライダー同士で争う「龍騎(りゅうき)」など、複雑な構造も多い。
葛城准教授は「『龍騎』は、2001年の米中枢同時テロ以降、米国の絶対的な正義が揺らぐ中、子供たちに“正義とは何か”を見てほしくて作ったとされる作品」と解説する。各ライダーの立場から、それぞれの正義が描かれた。
石森(いしもり)プロの早瀬マサト氏は、「ライダーはもともとの出自が敵組織の改造によるもので、完全なヒーローではない。善と悪の単純な二元論で語られず、それがライダーの魅力につながっている」と話す。さらに、「普遍的な正義はあり、それは時代を経ても変わらない」としながら、「石ノ森章太郎先生は『ライダーは時代とともに常に変わる』と話されていた」と指摘した。
女性が主役に期待
今後のライダー像も世相を反映しそうだ。「新型コロナウイルスによる根本的な価値観の変化が、作品の下地になるライダーも出るだろう」(葛城准教授)
女性ライダーも注目される。昭和シリーズから女性ヒーローはいたが、全話を通して活躍する女性ライダーは、令和の「ゼロワン」の「仮面ライダーバルキリー」が初となった。今後、女性ライダーが主役になっても不思議はない。
早瀬氏は「先生が存命なら、電車のライダーである『電王』どころか、もっと意外なものにも乗せたかもしれない。そうした殻を突き破って“変身”していくのがライダー。この先も確固たる信念を持って変わっていくべきだ」と語った。
イケメンライダーで母親にも人気に
平成シリーズの「仮面ライダークウガ」以降、シリーズの視聴者層は大きく拡大した。「クウガ」「アギト」では、警察組織など、リアルな人間ドラマも描いて人気は急上昇。「アギト」では視聴率(ビデオリサーチ調べ、関東地区)が全話平均で12%近くまで伸び、日曜朝の作品として驚異的な数字を稼ぎ、大きな反響を呼んだ。
その中で、平成10年代頃からの「イケメンブーム」にも相まって、出演俳優が“イケメンライダー”として人気を呼び、特に主要視聴者である子供の母親層にまで人気を及ぼした。「クウガ」のオダギリジョーを皮切りに、佐藤健(たける)、瀬戸康史(こうじ)、菅田将暉(すだ・まさき)、福士蒼汰(ふくし・そうた)、竹内涼真(りょうま)…とライダー出身の人気俳優を挙げればいとまがない。
香川大学大学教育基盤センターの葛城浩一准教授は「ライダーの視聴者層の拡大は、昭和時代からの課題。平成シリーズでは、かつて視聴者であった父親の取り込みも狙っていたようだが、結果的にイケメンライダーで母親にも視聴が拡大した」と解説する。
そのブーム当時の「アギト」に仮面ライダーG3-Xとなる氷川誠(ひかわ・まこと)役を演じた要潤(かなめ・じゅん)(40)はこの作品がデビュー作。「ファンや視聴者の反響が大きく、俳優としての最初の一歩を全て経験させてもらった作品」と振り返る。演じた氷川誠は、警視庁の未確認生命対策班で、「G3システム」を装着することにより、仮面ライダーとして戦う。仮面だけを外してライダースーツを装着したままのアクションシーンも多く、「アクションも大変でしたが、とてもやりがいを感じました。周りのスタッフにも支えられ、その指導に必死に応えようと頑張りました」と振り返る。
人間がライダーシステムを装着するという、人間にも近いライダーという立場で、「田崎竜太監督も『氷川誠という人間を通して、視聴者に仮面ライダーというものを伝えたい』とおっしゃっていた」と明かす。
当時を振り返り、「僕にとっては原点。いまだに反響も大きいし、いろんな作品に出てきたが、世の中の人がこれほどずっと評価し続けてくれる作品は、ライダー以外にない」と話す。
シリーズが50年を迎えることには「長く続くものは、作品として質が高いものであるということ。子供から大人まで楽しめる作品でとても大きなシリーズだと思う」と述べた。
一方、「龍騎」に登場する仮面ライダーゾルダに変身する北岡秀一を演じ、現在はムード歌謡グループ「純烈」のメンバーとして人気の小田井涼平(おだい・りょうへい)(50)は、「今ではいろんなバラエティーに富んだ作品があるけれど、当時はライダー同士が戦うという、急に変わったライダーになったという印象で、僕自身はライダーとは思わずに演じていた」と明かす。
仮面ライダーといえど、途中で死ぬライダーも頻出し、「演じながら、『自分はいつ死ぬんだろう』と毎日思っていた。毎回、台本が来るたびに、自分の(役の)“生存確認”をし、誰か他のライダーを殺していないかの確認をしていた」と振り返る。
多くのライダーがいて、それぞれの変身ポーズも異なり、特に後半に登場するライダーになるにつれ、いろいろな動きが増えて変身のアクションが長くなったという。「たくさんのライダーで同時変身すると、最初から出ているライダーの短い変身ポーズと、後半のライダーのポーズのタイミングが合わなくて」と苦笑しながら思い出話を披露する。
小田井もこの作品が役者としてのデビュー作。純烈で最初に紅白に出た年に、Sexy Zoneの中島健人から「龍騎、めっちゃ見てました」といわれたり、「エグゼイド」で主演した飯島寛騎からも同様に「見ていた」といわれたという。後輩ライダーに番組を見ていたといわれるような経験を経て「藤岡弘、さんも同じことを言っていたけど、そういうつながりの中に入れるのはうれしいし、自分が仮面ライダーの歴史の1ページになっていると考えるとすごいね」と改めてその歴史の重みを認識しながら話した。
筆者:兼松康(産経新聞)