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個人投資家がSNS(会員制交流サイト)を武器に、米株式市場で“大立ち回り”を演じた。個人が結託して特定銘柄の株価をつり上げ、値下がりを見込んだ取引をしていたヘッジファンドを追い込んだ顛末は「ゲームストップ・ショック」とも呼ばれる。SNSの普及が金融資本市場を揺るがす事態は、日本にとり対岸の火事ではない。
ヘッジファンドに勝利
ゲームストップ・ショックは、2008年のリーマン・ショック後に大手金融機関の救済に反発して起きた市民運動の流れを受けたものだ。
根底には、ヘッジファンドや高速取引(HFT)業者への懐疑的な見方がある。たとえば、HFT業者は証券会社にリベートを支払う代わりに個人の注文を回してもらい、その個人に先回りして市場で取引し、売買差益を積み上げているのではないかと疑念を持たれている。一方、証券会社はリベートを得ることで手数料の無料化などの原資にあてているとされる。ネット証券がゲームストップ株の取引を停止した裏には、HFT業者への配慮があったとの観測もある。
当時はウォール街の物理的な占拠にとどまったが、今回は個人が力を合わせてヘッジファンドを打ち負かすことに成功した。それを可能にしたのは、誰もが瞬時に情報を交換できるSNSだ。
異なる投資スタイル
日本でも、個人投資家がSNSを見ながらゲームストップ株を買う動きが広がった。楽天証券では、1月末にゲームストップ株を売買した個人は前週の15倍に増えたという。
マネックス証券では、日本からのゲームストップの株式売買代金が2位につける日も出てきた。親会社マネックスグループの松本大社長は「サイバーの世界に国境はないことをまざまざと見た」と驚く。
もっとも、日本の株式市場で全く同じ現象は起こりにくいというのが多くの専門家の見立てだ。相場が急変動した際に一時的に全体の取引を止める米国と違い、東京証券取引所では、個別銘柄の価格水準の1日の値幅を制限するため、個別銘柄の価格を際限なくつり上げることは不可能だ。米国に比べ日本人の投資スタイルが慎重という点も違う。
ただ、日本でも多くの人が利用するSNSを使い、集団で株価を動かす現象について、国内市場関係者の関心は高い。
日本では金融商品取引法により、意図的に株価を動かす「株価操縦」や誤った情報を流す「風説の流布」が禁じられている。しかし、SNSという公開の場での呼びかけに反応した不特定多数の行為を取り締まるのは難しい。
新たなルール整備も
大和総研の横山淳主任研究員は「どういう目的があったのかなど、外から実態を把握することは難しい」と指摘し、金融当局側も監督手段を現状に合わせて更新する必要性を訴える。
野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは「金融当局がSNSの実情に詳しい他の当局や専門家と連携し、新たな金融市場のあり方やルール整備について議論し、業界団体にも働きかけるべきだ」と話している。
筆者:米沢文(産経新聞)
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■ゲームストップ・ショック 米国の個人投資家がSNS(会員制交流サイト)「レディット」を使って連携し、業績不振の米ゲーム販売店ゲームストップの株式に大量の買い注文を入れた。値下がりを見込んで、借りた株を売却し、一定期間後に買い戻す「空売り」を仕掛けていたヘッジファンドに損失を出させた。一部の証券会社がゲームストップ株の取引を停止するなど、市場全体が混乱した。
■高速取引(HFT)業者 コンピューターを駆使して、高速・高頻度の金融取引を専門に行う機関投資家。わずかな値幅をとらえて、1秒間に1万回近くの売買注文を繰り返し、利益を積み上げる。市場でのお金の動きを円滑にする一方、相場情報をいち早く取得し、ほかの投資家よりも先回りして取引し利益を得る手法には批判もある。
■ヘッジファンド 投資家から資金を募って運用するファンドの中で、一般的に募集対象が50人未満のものを指す「私募ファンド」の中でも、ハイリスク・ハイリターンの投資を行うファンド。不特定多数の投資家から資金を募る「公募ファンド」と比べて運用の規制が緩い。
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