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中国が全面禁輸にした日本の水産品を輸入し、食べて日本を応援しようというイベントが12月25日のクリスマスの夜、台北市内で開かれた。台湾の対日友好団体など複数の関係者が主催した。イベントについては開催前に、JAPAN Forwardでも紹介したが、ぜひ見に来て欲しいと、産経新聞台北支局の矢板明夫支局長に誘われたので、1泊2日の強行日程で出かけてきた。
「日本海鮮祭、千人の宴」-。そう命名されたイベントの会場は、巨大な結婚式場だった。100以上の円卓が並び、ステージとその両側に超大型モニター画面が設定され、日台の子供たちによる和太鼓や音楽のパフォーマンスなどがあり、会場を盛り上げた。
イベントには、前立法院長(前国会議長に相当)で、台湾日本関係協会会長の蘇嘉全氏、安倍晋三友の会会長の陳唐山氏のほか、日本側からは日本台湾交流協会台北事務所代表(駐台湾大使に相当)の片山和之氏ら約1200人が出席した。
東京電力福島第一原発の処理水が海洋に放出されたことを受けて、中国政府が日本の水産品の全面禁輸措置を発表したのは2023年8月。中国市場への依存度が高いホタテなどの水産事業者に大きな打撃となっていることを知った、複数の台日友好団体と台湾の水産商社関係者らが、北海道からホタテなどの水産品を輸入し、約3カ月という超短期間でイベントを準備したという。
しかも、日本政府からの資金援助はなく、民間の力で実現した。参加費は一人1500台湾元(約7000円)だが、たった2日間で席は完売したという。イベントには、約20社の台湾企業が協賛した。日本からは唯一、日本酒の「八海山」が協賛し、八海醸造の南雲真仁(なぐも・まさと)副社長が登壇。イベントに参加できたことに感謝を表明し、「台湾と日本の交流が深まるような酒造りをしていきます」と挨拶した。
同じ円卓に座っていた台湾の水産商社幹部は「私たちも日本の人たちに助けられ事業を行っている。台湾と日本は一つの家族のようなもの。困ったときに助け合うのは当然のことだ。私たちも協賛社として、イベントが実現できて嬉しい」と話していた。
イベントに参加した安倍晋三友の会の陳唐山会長も「2年前、台湾がコロナウイルスのワクチンが足りなかったとき、日本が真っ先に提供してくれたことは多くの台湾人を感動させた。今回は台湾が日本を支援する番だ」と語った。
会場では、「中国が日本や台湾に圧力を加えれば加えるほど、台湾と日本の関係が進展する。実際に、ここ数年で日台関係は大きく前進した」という声を聞いた。日台関係のさらなる進展を期待したい。
しかしながら、総統選を1月13日に控えた台湾では、政治の嵐が吹き荒れている。さまざまなネガティブキャンペーンが展開される中、対中警戒感の強い政権与党、民進党の頼清徳氏が勝利するのか、政権交代となるのか、日本、いや世界が注視している。
日本は総統選後、国交がない台湾の防衛当局との交流、情報交換に留まらず、台湾有事を見据えて防衛当局間の連携訓練、さらには日米の共同作戦の立案や台湾を含む多国間の共同訓練の実施に向けて動くべきだ。それこそが、中国の台湾への軍事行動に対する抑止となるからだ。もし、中国が誤った判断を下した場合でも、慌てなくて済む。
台湾から話は飛ぶ。昨年、私が訪問した国で強い印象を残したのが、世界最大の人口14億を抱える平均年齢24歳の大国インドである。中国が「警戒すべき国」となる中で、今後、投資先としても世界の関心がインドに向いてくることは間違いないだろう。
インドについては、欧米世界には懐疑的な見方や警戒する分析もある。だが、多民族、多文化国家のインドに必要なのは経済発展であり、グローバルサウスの代表格として、欧米、中国、ロシアとも異なる地位なのだろう。世界で民主主義の国々が減り、権威主義国家が増える中、曲がりなりにも「世界最大の民主主義国家」を自負するインドとの協力も重要な課題だ。
昨夏、ムンバイにあるインド海軍司令部を訪問した際、幹部士官たちは口々に、「日本の海上自衛隊と共同訓練をして感じたのが、中国に対して双方ともまったく同じ問題意識を共有していた」と話していた。台湾有事をも念頭に置いた日印防衛協力を、さらに発展させていくべきだ。
中国が世界を牛耳る覇権国家となる中、台湾、インドとの一層の関係強化は、日本、そしてアジア全体を救うことになる。2024年、日本はそのために急いで行動に移そう。
筆者:内藤泰朗(JAPAN Forward編集長)