台湾の総統選は1月11日、投開票され、中国の圧力に抵抗する姿勢を示してきた民主進歩党の蔡英文総統(63)が史上最高の800万票超を獲得し圧勝し、再選を決めた。台湾統一を掲げる中国に対し、台湾の有権者は強烈なノーを突き付けた。蔡氏の次の総統任期は今年5月20日からの4年。2期目に突入する蔡氏の課題は何か。
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「2020年、台湾は世界の注目の焦点となる。民主主義を守るのは一人ひとりの責任だ。団結を示し、民主と自由を輝かせよう」
蔡英文総統による1日の新年談話は、11日投開票の総統選後を見据えたものだった。外交部(外務省に相当)によると、蔡氏の言葉通り、海外メディア113社から記者235人が派遣され、台湾の将来を占う選挙の行方を見守った。
2期目を目指して戦った蔡氏と与党・民主進歩党は、最大野党・中国国民党を「中国共産党の代理人」として攻撃することで、自らを中国の介入に抵抗する「民主主義の擁護者」として位置付ける戦略に成功。香港で香港政府や中国共産党に対する抗議デモが激しさを増した昨年夏以降、選挙戦を有利に進めてきた。
呉●(=刊の干を金に)燮(ご・しょうしょう)外交部長(外相)は9日の海外メディア向け記者会見で、過去の総統選で中国が軍事演習を行ったり、中国大陸で働く台湾人企業家に特定の候補を支援するよう働きかけたりした例を挙げ、「中国の介入は毎日の出来事だ」と強調した。その上で、台湾は専制主義に対抗する民主主義の「最前線」だと訴えた。
16年に発足した蔡政権は「台湾は中国の一部」などと中国が主張する「一つの中国」原則を受け入れず、中国との当局間対話は中断。中国は、台湾と外交関係を持つ国を切り崩し、蔡政権発足時の22カ国から15カ国に減らした。世界保健機関(WHO)総会など国際機関からも締め出して台湾の孤立化を図った。
中国が圧力を強める中、蔡政権は日米欧など「価値観の近い国々」を対外関係の活路とした。
特に米国のトランプ政権は17年1月の発足以来、台湾を支持する姿勢を明確にしており、蔡氏は米台関係を「史上、最も良い」と誇る。中国が台湾との外交関係を切り崩しながら進出を図る南太平洋諸国への援助で、日米豪と台湾が協調する動きもある。
米研究所「グローバル・タイワン・インスティテュート」のラッセル・シャオ執行長は「米国の台湾支持は、(米中対立によって)台湾の戦略的な重要性が増したことに加え、民主主義や人権などの価値観を共有しているためだ。支持は超党派で、(米国の)政権が代わってもすぐに変化はないだろう」と話す。
西側諸国との連携を強化する一方で、中国との経済関係では課題も残る。蔡氏は16年総統選の公約で、中国市場からの依存脱却を目指し、インドや東南アジア諸国との経済連携を強化する「新南向政策」を掲げた。だが、昨年(10月まで)の中国への輸出依存度は39・7%で、政権が発足した16年(40・1%)からほとんど減っていない。
蔡氏は「主権は短期的な経済的利益と交換できない」と訴えるが、台湾に対する中国の経済的な影響力は変わらず大きく、無視はできない。選挙戦終盤には、蔡政権への懲罰として、中国が中台間の自由貿易協定(FTA)に相当する「両岸経済協力枠組み協定」(ECFA)を破棄するとの憶測も飛んだ。
「中国の介入はこの先も続く。(総統選で)台湾人が中国の代理人を倒しても、憂いのない日々を過ごせることにはならない」
総統府の直属研究機関、中央研究院の呉介民研究員は選挙後の台湾をこう予測した。
筆者:田中靖人(産経新聞台北支局長)