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岸田文雄首相が4月28日の日独首脳会談で、ドイツの首都ベルリン市ミッテ区に設置されている慰安婦像の撤去を要請していたことが分かった。区が定めた慰安婦像の設置期間は8月までだが、像を設置したドイツの韓国系市民団体は設置延長や永続設置に向けたロビー活動を展開している。政府は首相が直接働きかけることで、撤去の早期実現に結び付けたい考えだ。
岸田首相はドイツのショルツ首相との会談で「慰安婦像が引き続き設置されているのは残念だ。日本の立場とは全く違う」と伝え、像撤去に向けた協力を求めた。
首相が像撤去を直接要請するのは異例だ。政府関係者は「これまでもさまざまなレベルで撤去を働きかけてきたが、首相が伝えれば強いメッセージになる」と事態の打開に期待を寄せる。
ミッテ区の慰安婦像は、ドイツの韓国系市民団体「コリア協議会」が中心となって2020年9月25日に区の公用地に設置された。日本政府はドイツ側に撤去を働きかけ、同10月にミッテ区長は撤去命令を出した。しかし、市民団体側の巻き返しにより撤去命令は撤回。区は像の設置許可を1年間とし、昨年8月には設置期間をさらに1年間延長することが決まった。
慰安婦像の台座には「第二次大戦中、日本軍はアジア太平洋地域の無数の少女や女性を強制連行し、性奴隷にした」などと事実に反する記載がある。市民団体側は像の永続設置を目指し、ミッテ区議会などへのロビー活動を継続している。
外務省幹部は「事実に反する記載を放置するわけにはいかない。市民団体側の働きかけもあるので一筋縄にはいかないが、総力戦で撤去の実現を目指す」と語る。
捏造の歴史、根付く恐れ
欧州の主要国であるドイツで存続を許せば、捏造された歴史が国際社会に根付きかねない―。岸田首相がショルツ首相にベルリン市ミッテ区の慰安婦像の撤去を直接要請したのは、こうした危機感の表れでもある。ただ、一度設置されてしまった像を撤去するのは困難なのが実情だ。
会談で像撤去を訴えた首相に対し、ショルツ氏の反応は芳しいものではなかった。ショルツ政権は対日関係を重視するが、像はミッテ区が管轄しており、独政府として介入できる余地は少ないためだ。
そのミッテ区議会は緑の党をはじめとする左派勢力が多数を占め、昨年9月の区議選でも議席は維持された。人権などを重視する傾向が強く、像設置を主導した韓国系市民団体「コリア協議会」にとってはロビー活動を展開しやすい状況が続く。
自民党からは「政府が情報収集を通じて設置を未然に防ぐべきだ」との声が上がる。ただ、近年は市民団体側も動きを「ステルス化」(外務省幹部)させており、各国の市や区議会レベルの動きを全て事前に把握するのは難しい。
ある政府関係者は「慰安婦問題が根本的に解決しない限り『もぐらたたき』は続く」と語る。韓国政府と市民団体の直接の関係はないとされるが、韓国側が慰安婦問題を政治利用してきた姿勢が、各国の市民活動に通底していることは否定できない。10日に発足した韓国新政権は日本との関係改善に意欲を示すが、行動が伴わなければ友好は望めない。
筆者:石鍋圭(産経新聞)