日本の造船所は一時期、世界の新造船の約半分を占めていましたが、1990年代以降、韓国や中国のライバル企業との競争が激化しました。また、これらの国の造船所の一部は政府からの援助を受けており、結果として、日本の造船所の多くは閉鎖や合併に追い込まれ、中には造船事業を中止し他の事業に転換する造船所も出て来ました。株式会社寺本鉄工所は、1934年に設立された尾道に拠点を持つ中小企業で、日本の造船業と強いつながりを持ち、何十年にもわたってこの業界の栄枯盛衰を見て来ました。
近年、寺本鉄工所は進化しており、その伝統的な船舶艤装品の製造に加えて、新しい分野にも進出しています。これらには、オフショアで使用する艤装品の製造、産業構造物の生産、ソーラーパネル・フレームの設計と製造に加えて、EnergySailを含む革新的な再生可能エネルギープロジェクトなどがあります。
寺本鉄工所および同社の今後の展望について、現社長である寺本吉孝氏が質問に答え、また、日本の中小企業がどのようにビジネス環境の変化に対応しているのかについて、独自の知見をお聞かせ頂けるとの承諾を得ることができました。
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寺本社長と質疑応答
貴社は長い間事業を続けて来られ、長年にわたって様々な課題に対処されて来ました。2020年の今、貴社が直面している大きな課題は何だと思いますか?
弊社が製造している製品は船舶に関係するものが全体の80%近くあります。現在、日本国内の造船所の手持ち工事量は1.5年以下と非常に少なく、それに伴い、弊社の仕事量も減少傾向になることが一番の懸念材料であります。また、新型コロナの影響で景気の後退が加速する可能性もあり、今後の弊社の経営戦略の見直しも必要になってくると思われます。
日本の造船業はここ数十年の間苦戦しており、多くの造船所が閉鎖したり、造船会社が合併したりしています。今が造船業界の最悪の状況だと思いますか?
今が最悪かはわかりませんが、少なくとも、今後、統廃合も含め、暫くは日本の造船業界は変革の時期が続くことが予想されます。
貴社は造船業界との関わりが長いですが、造船とは関係のない事業も行っています。その例を教えてください。
造船と一括に言うことは難しいのですが、弊社は商船向けとクレーン船や地盤改良船の作業船向けの製品があります。造船以外の製品では建設機械メーカー向けなどがあります。地元出身の美術家の依頼により、モニュメントを製作しております。そのモニュメントは広島駅前の噴水や福山美術館の広場、御茶ノ水駅前などに設置されています。
最近、貴社はオフショア分野で使用されるジャッキアップ装置の設計および製造のプロジェクトを受注しました。この装置について簡単なご説明をお願いします。また、潜在的な顧客についても教えてください。(ジャッキアップ装置とは、作業台船を海面上に持ち上げるための昇降装置です)
弊社では、シリンダー&ピンタイプの5,000トン(@LEG1,250トン)までのジャッキアップ装置を製作しています。近年、化石燃料に変わる自然エネルギーが注目される中で、その中でも今後、日本でも伸びてくるだろう洋上風力発電があります。この装置はサイズ的に発電メンテナンス用に需要がある大きさです。
貴社では、アジアやそれ以外の海外への輸出を増やして行きたいと考えていますか?もしそうであれば、どの国への輸出を考えていますか?
クリーンエネルギー/ECO分野では欧米向けをターゲットとしたいと思います。
最近、エコマリンパワー社や古河電池社、その他の企業と共同で「尾道 Marine Tech Test Center」を設立されましたが、このセンターに関して今後の予定はありますか?また、造船所やその他の潜在的な顧客も、このセンターを見学することは可能でしょうか?
このセンターは我々の製品の展示場であり、多くのお客様に実物を見学して頂くことを念頭に設置しております。弊社が独断で見学者を受け入れることは出来ませんが、共同開発企業と協議の上、なるべく多くの顧客の方に見ていただければと思います。
最後になりますが、貴社は尾道というとても景色の良い街にあります。尾道は国内外からの観光客にとても人気があります。そこで、観光客が知らないであろう地元ならではの「尾道で見るべきもの/するべきこと」を一つ教えていただけますか?
尾道は世界的に有名なサイクリングコース「しまなみ海道」があります。風光明媚な瀬戸内海とそこから取れる食べ物を楽しんでいただきたいと思います。
筆者・画像提供:グレッグ・アトキンソン(エコマリンパワー株式会社)
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株式会社寺本鉄工所:http://www.teramoto-iron.jp/