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実際の街並みや建物を仮想空間に再現する「点群データ」の技術について、大阪経済大学の中村健二教授、法政大学の今井龍一教授、摂南大学の塚田義典准教授と梅原喜政講師、関西大学の田中成典教授の研究チームが報告している。レーザーで計測しただけでは“点の集合体”にすぎないが、点群データを含む3次元データを共有できるプラットフォーム(基盤)を用いることで活用の幅が広がるという。この研究に関する論文はデジタル領域を中心に学術論文を広く掲載する電子ジャーナル「Journal of Digital Life」(ジャーナル・オブ・デジタル・ライフ)で公開されている。
点群データとは、XYZ(幅、高さ、奥行き)の位置座標や、RGB(赤、緑、青)の色などの情報を持った膨大な点の集まりで、現実空間にあるものをデータとして詳細に記録できる。例えば、戦後を代表する建築家の一人、故菊竹清訓氏が設計した「旧都城市民会館」(宮崎県都城市)の解体決定を受けて2019年、有志らが同建築をサイバー空間上に残す活動を行った。3Dレーザースキャナーを使い、外観だけでなく内部の舞台や観客席、天井裏の構造までアーカイブしたという。
点群データは建築物の“保存”だけでなく、建築現場や土木作業にICTを導入する「i-Construction(アイ・コンストラクション)」という分野でも関心を集める。インフラの点検にも応用できるので、国土交通省は道路管理の効率化や、災害時にリスクがある道路の洗い出しに点群データを活用しようと取り組んでいる。便利な技術には違いないが、中村氏らは点群データについて「用途に即して賢く使うのが難しい」と論文の中で指摘した。
道路を点群データで3Dモデル化した場合、人間なら視覚的に「ここからここまでが車道で、その脇に歩道がある」「街路樹と信号機と道路標識が立っている」などと一目で理解できる。だが、従来のシステムで点群データを分析しようとすると、点群データ自体は点の集まりにすぎないので、どこに何があるという基本的な情報を判断することができない。
そこで中村氏や今井氏らは、所属するIntelligent Style(インテリジェントスタイル)社で点群データの利活用を推進するプラットフォーム「3D Point Studio」を開発し、一部の機能を無償で公開した。
3D Point Studioでは、自然物・人工物の位置と属性の情報を持つ「領域データ」が点群データに付与されて、データとして整理されていない膨大な点群データから「特定の点の集まり」だけを抽出することが可能になる。領域データはマシンリーダブル(コンピューターが読み込んで処理できる)な性質を持っているため、街並みの点群データから道路の部分だけを表示して斜面の勾配を調べたり、車道沿いに並ぶ「柱状の物体」の中から電柱だけを抜き出したりできるのだ。仮想空間に現実空間の「双子(ツイン)」を作り、シミュレーションなどを行う技術はデジタルツインと呼ばれるが、中村氏らは車道、道路標識、電柱などをそれぞれ仮想空間で分析できる技術を「公共構造物デジタルツイン」としている。
点群データはサイズが大きく、容易に閲覧できないという課題があることから、中村氏らは3D Point Studioの役割を「データの閲覧や情報共有を担うオンライン版」と「データの加工や分析を担うオフライン版」に分割した。道路工事などの仕事で、早急に現場の様子を確認したいときは、オンライン版のサイトにアクセスすると、数分のうちに3Dグラフィックで“下見”ができる。閲覧したデータのURLを発行して、他の人と共有することも可能だ。オフライン版では、実務に即した多数の解析機能を有しており、点群データを多角的に解析・編集できる。
同社は、静岡県が公開している県道の点群データを3D Point Studioで用いて、時期が異なる点群データを比較することで、台風の前後で被災した地域がどのように変わったかを調べられる環境を構築。その功績が認められて、国交省が優れた建築・土木関係のプロジェクトを表彰する2019年度の「i-Construction大賞」で優秀賞を受賞した。今後については、3D Point Studioのように建築物やインフラを維持・管理する目的のものだけではなく、建築・建設にかかわるさまざまな研究を手掛けて研究成果を普及させたいとしている。
筆者:野間健利(産経デジタル)
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2023年4月10日産経デジタルiza【From Digital Life】を転載しています