戦後75年を迎えた日本人が先の戦争から学ぶべきものは何か。米ジョージタウン大のケビン・ドーク教授は、日本の文化や独自性の維持に向け、公の責務を果たしていくことの大切さであると訴える。
―米国では黒人暴行死事件を機に、急進的な左派勢力が差別主義解消を名目に建国の父の像を引き倒すなど、自国の歴史を否定する運動が台頭している
米国での破壊的かつアナキスト的な運動の背景にあるのは、国家を伝統や文化、宗教によって規定する考えの否定だ。彼らが奴隷制とは無関係な冒険家コロンブスの像を倒すのは、コロンブスが米大陸にキリスト教を持ち込んだとみるからだ。彼らは、米国の継続的な歴史や伝統、文化の概念を葬り去ろうとしている。
これは日本にとっても非常に重要な教訓となる。日本でも第二次大戦の終戦直後に似たような傾向が強かったものの、自国の伝統や文化を守ってきた。
―米国での社会風潮は日本にも波及しやすい
日本は持ちこたえてくれることを期待したい。
―日本での過去の歴史と宗教に関する議論の中心の一つは靖国神社だ
例えば靖国神社を国家主義、帝国主義の象徴として嫌悪する左派勢力が、千鳥ケ淵戦没者墓苑のような無宗教の追悼施設を(靖国神社の代わりに)設立することに成功すれば、それは日本の文化的、歴史的な継続性を崩壊させ、全く新しい国を造り上げる過程の始まりとなる。米国のアナキストたちは、それを自国で目指しているのだ。
―日本の若い世代に期待することは
若い日本人は第二次大戦について知らないし、靖国神社がどういう意味を持ってきたかも知らず、大半は、靖国神社に個人的なつながりを持っていない。『どうでもいい』と思っている。靖国神社の役割は、自らを犠牲にし、公の責務を果たした人々に対して日本人が抱く恩義の意識を明確にするものだ。戦地に赴いて命を落とした日本人の大多数は、自らの感情は別にして公の責務を果たすために戦った。『やりたくなくても、やらなければならない』という意識だ。
より多くの若い日本人がこうした気持ちを抱いてくれることを望む。もっと多くの人々に自衛隊に入隊してもらいたい。自らが進んで犠牲になる。『嫌でもやらねば』と進んで言う。靖国神社はこうした精神の象徴になり得る。
―日本は今後、どこに向かうと考えるか
日本は歴史の継続性が、大戦後も驚くほどの水準で維持されてきた。これが日本の強みとなっている。一方で、日本は非常に裕福になった。人間は豊かになると、自身の享楽に対する関心が強まり、公的な責務への関心は衰える。米国でも日本でも欧州でも、これは真実だ。日本でどちらの傾向がより強くなっていくかは分からない。日本は今、岐路に立たされているのだと思う。
聞き手:黒瀬悦成(産経新聞ワシントン支局長)
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【プロフィル】ケビン・ドーク
1960年生まれ。米国クインシー大学卒。シカゴ大学で日本研究により博士号取得。イリノイ大学准教授などを経て、現職。日本の京大、東大、立教大、甲南大などで学ぶ。著書に「日本浪曼派とナショナリズム」(柏書房)、「日本人が気付かない世界一素晴らしい国・日本」(WAC)など。60歳。