一流ホテルが立ち並ぶ東京・日比谷に20日、新たな宿泊施設「ザ・ブラッサム日比谷」(JR九州ホテルズ、松本淳也社長)が開業する。来年の東京五輪・パラリンピック開催を控え、外国人訪日旅客(インバウンド)の旺盛な需要の取り込みを図ろうと、地元・九州から東京での勝負に打って出る。
東京展開の狙いは?
「東京五輪後も中間、高級層を狙っていく。集客は心配していない」
JR九州事業開発本部長の田中龍治専務執行役員は9日、ザ・ブラッサム日比谷19階に整備された会議室で開かれた記者会見で、そう強調した。
九州地方に拠点を置くJR九州グループが東京に進出する背景には、人口減少や少子高齢化が進む九州地域のみでホテル事業を展開することに対し、「企業の成長、発展に制約が出てくる」(松本氏)との事情があった。そこで、訪日客の需要が高い東京への進出に活路を見いだした。
同グループが東京で手がけるホテルはザ・ブラッサム日比谷が2件目となる。東京への初進出は2014年、JR新宿駅南口に開業した「JR九州ホテル ブラッサム新宿」(渋谷区代々木)だった。田中氏は「全体の3~4割と見越した諸外国のお客さまが実際には7~8割に上った」と述べ、訪日客を受け入れるホテル事業の東京展開に自信を深めたという。
「鹿鳴館」を連想させる高級路線
明治時代に連日連夜、政府高官や貴族、外国人が舞踏会などを開いた「鹿鳴館」が鎮座した日比谷。外交の社交場の雰囲気を持たせたという18階の受付、ロビーでは、縦横1メートル四方の巨大な生け花が宿泊客を出迎える。鹿児島県出身の作家が手がけたガラス細工や長崎県佐世保市特産の三川内焼などの作品が「鹿鳴館の艶やかさを漂わせる」(同ホテル)ところが見どころという。
今回開業するホテルは提供価格を「アッパーアップスケール」と呼ばれる高価格帯に設定。同グループが運営する宿泊施設では最上位ブランドに位置付けた。
地上27階、地下2階の構造で、20階から最上階が宿泊施設となっている。総客室数225室を擁する。
洗い場付きのバスルームやクイーンサイズのベッドが備え付けられた「スタンダードダブル」と呼ばれる客室で2人4万円から、最上級のプレミアムツインの客室で2人9万7200円(いずれも税込み、正規料金)で提供する。
プレミアムツインは、25~27階の角部屋に計6室整備された、広さ61平方メートルの客室だ。寝室とリビングルームが一続きの間取りとなっている。
19階には、車いす利用の宿泊者に対応した客室や、歩行・走行のための健康機器「トレッドミル」などを備えた運動施設のほか、会議室が整備されている。
従業員には、東京のホテルオークラによるサービス教育を施したといい、田中氏は「いかにお客さまにきちんとしたおもてなしをするかが重要だ」と狙いを強調した。
国際対応の中に日本風
開業前の内覧会、試泊会では、世界中の宿泊者を受け入れるための対応を整えながらも、日本風のもてなしが随所にちりばめられた様子が印象に残った。
「東京の素晴らしい景色を一望できる」
日比谷に開業の拠点を選んだ理由について、田中氏がそう強調する通り、北側の客室からは、皇居のほか緑豊かな日比谷公園や東京スカイツリーなど東京を象徴する景色が広がる。南側には、東京タワーや増上寺、虎ノ門ヒルズ森タワーなどが一望できる。
客室にはタブレット端末が備え付けられ、日本語、英語、中文、韓国語に対応している。指先の操作一つで、カーテンの開閉や消灯のほか、洗濯機などを備え付けた施設の込み具合も確認できるという。
洗い場には、肌触りの良さで定評のある愛媛県特産の今治タオルを用意。トイレとガラス扉で区切られたバスルームは、欧米などのホテルとは違い、シャワーを浴びる場所と浴槽が分かれた、日本式の風呂場の形が採用されている。
18階のレストラン「十十六(そとろく)」では九州産のそば粉を使ったそばや、宮崎県産和牛のほか、鹿児島県産の和紅茶など、九州各地の食材を使った料理が楽しめる。
田中氏はサービスの質や価格競争力などの点から他社に「負ける気はしない」と胸を張る。
筆者:岡田美月(産経新聞経済本部)