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インバウンド(訪日客)の間で相撲人気が高まっている。勝敗を争うスポーツでありながら「古事記」に登場する神話に起源を持つ相撲。日本固有の伝統や文化に興味を持つ欧米客らを対象にした、体験型サービスの注目コンテンツとなった。大阪でも相撲ショーを楽しめるホールが5月20日、新たに開業し、旅行会社の観戦ツアーも完売が続出している。
「相撲を生で見たのは初めて。準備運動や作法、作戦の意味をより深く知ることができた。機会があればまた見たい」
米国からの訪日客、ローラ・コントレラスさん(47)と息子のアントニーさん(17)は大阪府大東市にある土俵でアマチュア力士が取る相撲を英語の解説付きで観戦し、満足げに話した。
大阪観光局が令和元年から一般社団法人「大東倶楽部」と協力して提供している相撲体験プログラムで、観光客が土俵に上がったり、験担ぎの背景などの説明を交えながらちゃんこ鍋を楽しんだりもできるのが人気だ。
音楽、イベント事業などを手がける阪神コンテンツリンク(大阪市)も5月30日、訪日客向けに相撲ショーを見せるホール「THE SUMO HALL 日楽座 OSAKA」(ザ・スモウホール ヒラクザ オオサカ)を複合商業施設「なんばパークス」(同市浪速区)内に開業する。
ホールの広さは約330平方メートルで全約180席。日英の2カ国語で相撲の歴史やルールを解説しながら、元力士が実物大の土俵でパフォーマンスを披露し、弁当も用意する。すでに米豪を中心に10数カ国から予約が入っており「滑り出しは順調」と担当者は話す。
相撲人気の高まりは日本相撲協会が海外巡業や公演を通じて相撲の普及に努め、外国人力士が増えたことも大きい。協会によると大相撲の外国人観戦客は増加傾向で、「当日に来場する客の30%ほどを占めるのではないか」という。最近の外国人観戦客数は新型コロナウイルス禍前を上回る勢いで、広報担当者は「さまざまな国の方が相撲に関心を寄せていただいている」とする。
さらに昨年は角界で活躍する青年を描いたドラマ「サンクチュアリ―聖域―」が全世界で配信され、大ヒットしたこともファンを増やすことに一役買った。リクルートの観光調査・研究機関、じゃらんリサーチセンターも「新型コロナ禍での在宅生活でドラマに触れた人も多く、相撲観戦などに関心が集まっている」(担当者)と指摘した。
旅行会社も人気にあやかろうと注力する。JTBは両国国技館(東京都墨田区)などでの大相撲を、通訳の案内付きで楽しめる観戦ツアーを用意。取組のルールや番付の見方を英語で解説した小冊子を特典に付け、相撲を見たことのない外国人でも分かりやすくパッケージ化した。欧米豪を中心とする訪日客に人気といい、前年より日程を増やして今年3月に売り出した大阪場所のツアー(1万6500~1万7000円)も完売した。
相撲の取組自体はノンバーバル(非言語)で楽しめるもの。「勝敗の基準がシンプルで分かりやすく、興味を持ってもらいやすい」とJTBの担当者は手応えを示している。
筆者:田村慶子(産経新聞)