Iwaya Giken Balloon Space Travel 002

About 10 years from now, it will be possible to travel to space in a balloon for around 1 million yen ($7,500 USD)," said President Keisuke Iwaya at Takahiro Sakamoto, speaking with The Sankei Shimbun in Sapporo on July 12., 2022. (©Sankei by Takahiro Sakamoto)

岩谷技研の岩谷圭介社長
=7月12日、札幌市北区(坂本隆浩撮影)

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札幌市の岩谷技研がガス気球を使った宇宙旅行の研究開発を進めている。6月には自社開発した気密性キャビンにハムスターを乗せて高度23キロの成層圏まで到達し、無事に帰還させる試験に成功。来年度には高高度有人飛翔(ひしょう)試験を行う計画だ。岩谷圭介代表(36)は「いずれは100万円台で気球宇宙旅行ができるのでは」と思いを語る。さほど遠くない未来、宇宙旅行が手に届く時代を迎えるかもしれない。

 

高度25キロの成層圏に浮かぶ機密キャビン。気球に取り付けたカメラから、地球を背景にして撮影した=2021年5月、沖縄県宮古島上空(岩谷技研提供)

 

高度25キロの成層圏へ

 

岩谷代表が想定している宇宙旅行は、いずれも自社開発した高高度に対応するガス気球と人を乗せる「気密キャビン」を組み合わせたもの。プラスチック製の気球には人を持ち上げられる量のヘリウムガスを注入。搭乗者は真空環境などの気圧変化に耐えられるキャビンに入り、ガスの浮力でゆっくりと上昇しながら高度約25キロの成層圏に到達。眼下に広がる地球と宇宙空間を遊覧後、ゆっくり降下して地上に帰還する。

 

落下地点はコンピューターのシミュレーションで事前解析し「迎えに行くことができる」という。

 

北海道大学工学部で宇宙工学を学んだ岩谷代表は、大学卒業後の平成24年に小型の風船装置を打ち上げ、高度30キロから宇宙の写真撮影に成功したことで話題を呼んだ。企業やマスコミからの撮影依頼などが相次ぎ「必要に迫られて会社を立ち上げ、気づいたら事業になっていたという感じ」と語る。

 

28年に出身地の福島県で岩谷技研を設立し、令和2年に本社を札幌市に移した。現在は同市内に研究開発を担当する「札幌R&Dセンター」、同市に隣接する江別市の「江別気球工場」でキャビンや気球の開発・製造を進めている。

 

30メートルの低高度で行われた有人飛翔試験の様子=2022年2月、福島県相馬市(岩谷技研提供)

 

負担の少ない宇宙旅行

 

会社立ち上げからわずか6年余りだが、開発スピードは速い。今年6月のハムスターによる打ち上げ実験以前は、▽熱帯魚を最高高度28キロまで打ち上げて無事に帰還(平成30年6月)▽無人キャビンの打ち上げ成功=最高高度25キロ(令和3年5月)▽19メートル級の無人気球打ち上げ成功(令和4年2月)▽30メートルの低高度有人飛翔試験成功(同)▽25メートル級の無人気球打ち上げ成功(同3月)―などの実績を持つ。

 

今年8~9月には高度2~4キロ程度の中高度飛翔試験、来年度までに地上から25キロの高高度有人飛翔試験をそれぞれ行う計画だ。

 

気球のメリットについて岩谷代表は「ロケットで宇宙に行く場合、事前準備に時間がかかり、身体的な負荷も大きい。気球なら負担はなく、打ち上げ準備も1時間半ほどでできる」と語る。

 

1人用キャビンはすでに完成しており、2人用も設計はほぼ同じで、4~5年後を目標に6人乗りキャビンの開発も進めている。

 

1人乗り用キャビンの乗り降りを確認する研究開発スタッフ=2022年1月、埼玉県八潮市(岩谷技研提供)

 

事業化当初は1人あたり1000万円台の費用になる見通しだが「20人乗りキャビンができれば1人100万円台で行けるのではないか」。

 

多くの人があこがれる宇宙旅行が、普通自動車並みの価格で可能になるなら、10年は決して長くはない時間だ。

 

 

諸外国に先行

 

気球宇宙旅行に情熱を傾ける岩谷代表だが、自身の搭乗については「タイミングには特にこだわっていない。いつでもいいんです」と笑う。

 

楽しさを感じるのは開発作業といい「『やれることをしっかりやる』ということを大事にしている。イレギュラーな状況は必ず起こるので、考えられる問題をすべて想定し、つぶしこんでいく。成功も失敗もすべて開発にフィードバックできるところが面白い」と研究開発者の目線で語る。

 

米国とスペインに同じ分野で開発を進める企業があるが「現時点で実験まで進んでいるという話は聞いていない」(同社幹部)。世界的にも岩谷技研が大きく先行しているが、事業化に向けては開発人員と資金が必要という。

 

岩谷代表は「近年は国内でも宇宙旅行への夢に出資をしてくれる動きが活発で感謝している。事業の成果を見せながら着実に前へ進んでいきたい」と話している。

 

筆者:坂本隆浩(産経新聞)

 

 

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