China Congress

In this photo released by Xinhua News Agency, delegates applaud as Chinese President Xi Jinping arrives for the opening session of China's National People's Congress (NPC) at the Great Hall of the People in Beijing, Friday, May 22, 2020. (Li Xueren/Xinhua via AP)

 

 

言論や集会、報道の自由を奪う香港の新たな法制度などに関する決定が5月28日、中国の全国人民代表大会(全人代)で採択された。

 

政権転覆などを禁じた国家安全法を制定するためで、全人代常務委員会が法を制定し、8月にも香港で施行される。

 

決定事項には、国家分裂や政権転覆とみなされる行為を主に処罰する規定が明記された。施行後は香港の平和的なデモ活動や反政府集会、共産党批判の報道や出版なども摘発される。

 

香港に高度な自治を保障する一国二制度を踏みにじるものだ。「香港抑圧法」であり、断じて容認できない。

 

 

高度自治息の根止まる

 

一国二制度は中国の主権の下に本土側で社会主義を、香港側で民主主義や資本主義を残す世界でもまれな政治制度だ。

 

中英両国が1984年に調印した香港返還のための「中英共同声明」は国連事務局に登録され、その後発効した。声明の柱である一国二制度の保障は、国際条約にも準じる国際公約である。英国から中国に返還された97年から50年間にわたり約束されており、一方的な反故(ほご)は許されない。

 

返還時に制定された香港の基本法(憲法に相当)の規定で、中国の法制を香港に適用するには香港議会での議決が必要である。

 

だが、国家安全法は北京の決定が先行し、頭越しに香港に適用する初のケースとなる。民主主義に基づく香港の法治を根底から覆す手法で、許しがたい暴挙だ。

 

香港の民主派は、国家安全法により香港は「一国一制度」になってしまうと反発している。中国の政治圧力ですでに形骸化している香港の高度な自治は、息の根を止められよう。香港で再び抗議デモが激化する恐れがある。

 

言論の自由が奪われるだけではない。北京の中央政府が国家の安全を守る執行機関を香港に置ける規定が盛り込まれた。スパイ活動を取り締まる中国国家安全部が香港に駐在する可能性が指摘されている。何をスパイ活動と判断するかは中国次第である。

 

中国国内では、新型コロナウイルス感染抑え込みのため、全土で強硬手段をとり、一方では失業者が急増するなど経済も大きな打撃を受けている。共産党政権は、人民の不満が鬱積した際、そのエネルギーを外に向けさせるのを常套(じょうとう)手段とする。その対象に香港を選び、習近平体制の維持を図る狙いもあるのだろう。

 

共産党独裁の中国本土と同じような制度を香港に持ち込めば、国際社会は黙っていまい。

 

問題は中国と香港の間だけにとどまらない。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)後の世界で、香港が緊張を高める米中新冷戦の主戦場になる懸念がある。両国は感染源をめぐって応酬し、貿易交渉も道半ばだ。

 

 

安倍首相自ら主張せよ

 

ポンペオ米国務長官は国家安全法について声明を出し、「香港の自治と自由を根本的に損なう。自治を否定する中国共産党体制と戦う香港の人々を支持する」と述べた。トランプ米大統領は「対中制裁措置を今週中に発表する。強力な内容になると思う」と語った。米国は「一国二制度」を前提に関税やビザ発給など香港を優遇してきた。それがなくなれば、米国が優遇措置を見直すのは当然だ。

 

日米欧や東南アジアなどと中国本土を人の流れや物流、金融というヒト・モノ・カネで結び付ける重要な拠点が香港だ。香港の証券市場に上場して巨額の資金を得た中国国有企業も数知れない。

 

国家安全法が制定されればレッセフェール(自由放任主義)とうたわれた国際金融センターとしての香港の機能は失われ、日本を含む多くの国々にも経済的な損失を与えることも疑う余地がない。

 

菅義偉官房長官は「国際社会や香港市民が強く懸念する中で採択されたことやそれに関連する香港情勢を深く憂慮する」と述べた。安倍晋三首相自身が明確に撤回を求める必要がある。首相は、6月米ワシントンで開かれる先進7カ国(G7)首脳会議で最優先課題として取り上げるべきだ。

 

習近平指導部は台湾にも一国二制度による「中台国家統一」を訴えてきた。台湾にとって認められないばかりか、香港の現状が台湾の将来となりかねない。中国は香港への国際公約を完全履行し、態度で示さねばならない。

 

 

2020年5月29日付産経新聞【主張】を転載しています

 

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