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国際社会の支援で民主化の道を選択したはずのカンボジアは、どこで方向を違えてしまったのか。
有力野党を排除して行われた選挙には公正さも正当性もない。
38年にわたりカンボジアを統治するフン・セン首相は、国際社会の失望と非難を真摯(しんし)に受け止めるべきだ。
7月23日に投開票されたカンボジア総選挙(定数125)は、フン・セン氏率いる与党カンボジア人民党が圧勝した。
人民党が幅広い支持を得たからではない。政権の影響下にある選挙管理委員会は、有力野党の政党登録を「書類の不備」を理由に認めなかった。選挙法を改正し、棄権や白票を投じるよう呼びかけることを禁じた。
露骨な野党排除は2度目である。2017年には、当時の最大野党の党首を逮捕して解党処分に追い込み、人民党は18年の総選挙で全議席を独占した。
今回の選挙からわずか3日後、フン・セン氏は首相辞任を表明し、長男のフン・マネット氏を後継とする方針を改めて発表した。選挙での「圧勝」は世襲を正当化するために必要な演出だったとみられている。
米国は「民主国家になるとの国際的な約束を損なう」と批判し、カンボジアへの援助の一部停止や「民主主義を弱体化させた人物」への査証発給制限を発表した。これに対し「懸念を持って注視する」とした日本の反応は実に歯がゆい。
ポル・ポト政権下の国民虐殺などカンボジアでの内戦は20年に及んだ。民主的な政権を根付かせるべく、国連や日米欧は新生カンボジアを支援した。国連管理下で初の民主的選挙が行われたのはちょうど30年前だ。
このとき、日本も初めて国連平和維持活動(PKO)に参加したが、国連ボランティアと文民警察官の2人の日本人が何者かに銃撃されて死亡した。カンボジアは選挙を経て、立憲君主国となり、シアヌーク氏が国王に復位した。
しかし、フン・セン氏は国際社会の支援や期待に背を向けて強権化を進め、中国への傾斜を強めた。日本がカンボジアの現状を看過することは、2人の献身を含め、これまでの努力を無にすることになる。日本はカンボジアに民主主義の価値を粘り強く説き、働きかけを強めていくべきだ。
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2023年8月6日付産経新聞【主張】を転載しています