~~
「反プーチン」の象徴的存在で、投獄されていたロシアの反体制派指導者、アレクセイ・ナワリヌイ氏が急死したことについて、岸田文雄首相や上川陽子外相から明確な発言が聞こえてこない。
国会でも決議や真相解明を求める動きは見られない。
あまりの感度の鈍さに呆(あき)れるほかない。これが自由と民主主義を尊重し、国際社会で名誉ある地位を願っているはずの日本の政治家の姿なのか。
バイデン米大統領はナワリヌイ氏の急死について「疑いなくプーチン(露大統領)と彼の悪党たちの仕業だ」と述べた。ショルツ独首相はX(旧ツイッター)に「民主主義と自由を求めて立ち上がったナワリヌイ氏は、勇気の代償を自らの命で支払った」と投稿した。
岸田首相や上川外相はなぜ記者団の前で語らなかったのか。林芳正官房長官にしても定例会見で質問され、「確定的な情報は有しておらず、コメントすることは差し控える」「重大な関心をもって状況を注視していく」と述べるだけだった。きちんとした情報をロシア政府が示さないこと自体が問題だと分からないのか。
岸田首相らに国際社会に向けて適切な発信を素早く行う姿勢が欠けているとしても、彼らを補佐する国家安全保障局(NSS)や外務省は一体何をしているのか。
先進7カ国(G7)は独ミュンヘンで外相会合を開いた。イタリアのタヤーニ外相は議長声明で「憤り」を表明した。ロシア政府に死因を完全に明らかにし、「政治的異議を唱える者への許容できない迫害」の停止を求めた。
上川外相は、東京で日ウクライナ経済復興推進会議などがあったため、ミュンヘンの外相会合への出席はかなわず、外務審議官が代理出席した。それは仕方ないとしても、ナワリヌイ氏急死について発信しないのは解せない。
日本がロシアに忖度(そんたく)していると国際社会で思われれば、国益を損なう。
国会や各党も自民党の派閥パーティー収入不記載事件への対応ばかりに気をとられていてはいけない。自由と民主主義のために戦ったナワリヌイ氏を追悼し、急死の真相解明を求める国会決議を採択したらどうか。
◇
2024年2月22日付産経新聞【主張】を転載しています