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イランのライシ大統領がヘリコプターの墜落事故で死亡した。ダムの完成式典に出席した後、別の視察先に向かう途中だった。同乗していたアブドラヒアン外相も死亡した。悪天候が原因の墜落事故だとみられている。
各国からは追悼の声が寄せられ、岸田文雄首相も「深い悲しみの念に堪えない」とする談話を発表した。
中東ではパレスチナ自治区ガザでイスラエルとイスラム原理主義組織ハマスの戦闘が続いている。ハマスの後ろ盾であるイランもイスラエルとの対立を深め、4月にはイスラエル領土を初めて直接攻撃した。
ライシ師の急逝が緊迫する地域情勢に悪影響を及ぼしてはならない。政情の不安定化で利を得ようとする国や勢力が挑発的行動を取らぬよう関係国や国際社会は警戒を強めるべきだ。
ライシ師は、1979年のイラン革命を指導したホメイニ師や現最高指導者のハメネイ師ら「革命第1世代」を支えてきた。反米の保守強硬派で、ハメネイ師の最有力の後継候補でもあった。イランでは大統領は行政の長であり、国政全般の決定権は最高指導者が握る。このため現在の米欧に対する強硬姿勢と、親中国、親ロシアの路線は変わらない見通しだ。
ライシ師死去後、暫定大統領に任命されたモフベル氏はプーチン露大統領と、バゲリ外相代行は中国外務省幹部と、それぞれ電話会談を行った。
一方、国内では、政治的対立や社会的混乱が深まることもあり得る。それが国民に犠牲を強いることがないよう、まずは6月28日に実施する予定の大統領選を公正に行うようイランに促していきたい。
2021年の大統領選挙では最高指導者の影響下にある護憲評議会が、改革・穏健派の立候補を認めなかった。投票率は48・8%と革命以来、最低となり「茶番」とも批判された。これを繰り返してはならない。
核開発問題で米国から制裁を受けるイラン経済は疲弊している。22年には、女性が髪を隠すヘジャブ(スカーフ)着用に反対するデモが全土で起きた。
ライシ政権はこうしたデモを弾圧し、子供を含む500人以上が犠牲になった。指導部には、有権者の不満に正面から向き合い、公正で公平な選挙を行うべき責務があろう。
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2024年5月22日付産経新聞【主張】を転載しています