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東京電力福島第1原子力発電所で処理水の海洋放出が24日午後から始まった。政府の関係閣僚会議の決定を受けての放出である。
漁業関係者の間に反対意見があったが混乱は起きず、平穏裏の放出開始となった。
現在、第1原発の敷地には千基以上のタンクが林立し、多核種除去設備(ALPS)を通した約134万トンの処理水などが貯蔵されている。初放出の今回は、そのうちの約7800トンを海水で十分に薄め、17日間で流す予定だ。国内だけでなく世界の関心も高く、確実な実施が望まれる。
かねてこの計画を「核汚染水で海洋環境の安全と人類の生命、健康にかかわる重大問題」と批判してきた中国は、初日の放出後、日本産水産物の全面禁輸を宣言し、25日には水産加工品の購入や使用も禁止した。
理由は「中国の消費者の健康を守り、輸入食品の安全を確保するため」というが、不当な禁輸で日本の水産業に多大な経済的打撃を与える暴挙に他ならない。岸田文雄首相が即時撤廃を申し入れたのは当然だ。
処理水は大量の普通の水と極微量のトリチウム水が混ざったものだ。両者は分別不能で処理水中に同居している。
トリチウムは放射性元素だが発する放射線は生物への影響を無視できるほど弱い。しかも口から摂取した魚介類や人体からも速やかに排出される。
そもそもトリチウムは、宇宙線と大気の作用で自然発生し、日本に1年間に降る雨には約220兆ベクレルが含まれている。それに対して今後、第1原発から計画的に放出されるトリチウムの量は年間22兆ベクレル未満にすぎない。それを海水で大幅に薄めて放出するので、生態系などへの影響は起きようがない。しかも中国の原発も大量のトリチウムを放出しているではないか。
矛盾に満ちた中国の反応で懸念されるのが科学的根拠を欠いた風評の拡大だ。7月には立憲民主党の一部の国会議員が、放出に反対する韓国野党に同調する動きを見せている。
幸い日本国内では処理水放出を認める意見が反対意見を上回りつつあるが、風評の拡大防止には政府の一層の説明努力が求められよう。廃炉の進捗(しんちょく)と福島の復興につながる処理水の放出は今後、約30年間続く。7800トンは、その第一歩だ。
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2023年8月26日付産経新聞【主張】を転載しています