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言論の自由と並び、公正な選挙の実施は民主主義の根幹だ。
これをゆがめようとする動きはだれであれ、決して許されない。
カナダ政府は自国の総選挙に対する中国の介入疑惑について徹底的に調査し、その結果を臆せずに公表すべきだ。
日本にとっても対岸の火事ではない。選挙や憲法改正の是非を問う国民投票などで、悪意を持った外国勢力が入り込む隙はないか、不断の警戒と対策が必要である。
カナダの複数のメディアによると、同国に駐在する中国の外交官らが2019年と21年の総選挙で、世論工作を仕掛けた疑いがあるという。中国に友好的でない野党・保守党の候補を落選させようとする一方、意中の候補には、選挙活動費を寄付したり、特定の候補の偽情報をオンラインで拡散したりした疑いが噴出した。
トルドー首相は「カナダ国民として私たちの、まさに中核に対する攻撃だ」と述べ、特別調査官を任命する意向を表明した。一方で選挙結果への「影響はなかった」としている。
重要なのは、介入の試みの有無だ。その点で「選挙結果が変わらなかったとしても、外国による干渉があったとすれば深刻だ。民主主義への信頼維持が最も重要だ」としたトルドー氏は正しい。
中国側は「カナダの内政に関心はなく、干渉もあり得ない」と疑惑を全面否定した。
しかし、この発言を額面通りには受け取れない。トルドー政権は米政府の要請を受けて18年に中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)の孟晩舟副会長兼最高財務責任者(CFO)を拘束した。その後、両国関係は悪化した。
中国側に、カナダを自国側に引き寄せたいとの思惑があったとしても不思議ではない。
中国は併吞(へいどん)を目指す台湾に対して、恒常的に偽情報を拡散させている。過去の台湾の選挙では、ネット世論の誘導や親中候補への多額の迂回(うかい)献金が行われた疑いが報告されている。
ロシアは16年米大統領選に際し、交流サイト上でクリントン陣営に不利な投稿を拡散するなど、「組織的介入」を行った。
干渉の機会を常にうかがう中露に対し、日本など民主主義国は、情報を共有し、協力して対処していかなければならない。
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2023年3月18日付産経新聞【主張】を転載しています