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36人が死亡し、32人が重軽傷を負った京都アニメーション(京アニ)放火殺人事件の発生から5年となった。強固な殺意に基づく計画的な無差別大量殺人は社会不安を広げ、模倣犯も生んだ。
だが、ガソリン放火はなお後を絶たず、再発防止策は途上のままだ。
悲惨な事件を二度と起こさせないために何が必要か。地域や職場、家庭など社会全体で真摯(しんし)な議論を続ける必要がある。
殺人など5つの罪で起訴された青葉真司被告に京都地裁は今年1月、求刑通り死刑を言い渡した。被告側はこれを不服として大阪高裁に控訴したが、2審の日程は決まっていない。
被告は平成13年の武富士事件や、20年の秋葉原事件に影響されたと述べた。動機は「京アニに小説を盗まれた」という一方的な思い込みだった。
公判では「浅はかだった」「申し訳ないと思う」など、反省や謝罪の言葉も口にしたが、地裁判決は「真摯な反省はなく、改善は期待できない」と指摘した。
事件を機に消防法令が改正され、ガソリンの小分け販売時に身元と使用目的の確認が義務付けられた。しかし、事件の約2年後に起きた大阪・北新地のクリニック放火殺人事件で容疑者は「バイクに使う」と説明して購入したガソリンをまいて放火し、26人が命を奪われた。今月16日には、愛知県高浜市役所で男が可燃性の液体をまいて火を付け、職員らが負傷した。
京アニ事件5年に際し、産経新聞が各政令市の消防局などに行ったアンケートでは、現行法で模倣犯を防ぐのは困難であり、防火対策を徹底させることが有効との意見が目立った。建物の避難経路の拡充や想定外の大火災を念頭に置いた避難訓練の定期的な実施などだ。
京アニ本社のある京都府宇治市の公園には今月、遺族らが事件を伝える「志を繋(つな)ぐ碑」を設けた。犠牲となった36人と同じ数の鳥が空へ羽ばたく姿が表現された。
36人は当時、21~61歳で世界に誇る日本アニメの未来を嘱望されたクリエーターだった。
碑文には「子どもたち、そしてすべての世代に届く確かな映像と物語」を「世界に向けて発信していく」と刻まれた。
犠牲者の業績と思いは未来に引き継がれる。
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2024年7月18日付産経新聞【主張】を転載しています