国会はもっと大きな論議をしてほしい。28日から始まった代表質問を聞いての率直な感想だ。
新型コロナウイルス禍をめぐる問題や日本学術会議会員候補の一部任命見送り、2050年までの温室効果ガス排出の実質ゼロ達成などが取り上げられた。
一方で、素通りされた重要課題もあった。その典型が、与野党とも日本の守りをほとんど取り上げなかったことだ。国会がこんなていたらくでいいのか。
国の最も重要な責務は、国民の生命と領土、領海、領空を守ることだ。政党も国会議員も防衛、安全保障の問題を避けて通れないはずである。
だが、尖閣諸島(沖縄県)防衛に関する質疑はなかった。中露両国や北朝鮮の核・ミサイルの脅威を指摘し、国民を守り抜く方策を提案した質問者もいなかった。
中国公船が尖閣周辺で領海侵入などを繰り返している問題を取り上げたのは立憲民主党の福山哲郎氏だけだった。その福山氏にしても「どのような外交努力をするのか」と問うにとどまった。外交、防衛双方の強化が必要である。
中国公船による過去最長の領海侵入や日本漁船の追尾、中国海軍艦船が尖閣付近を飛んでいた海上保安庁機に「中国領空からの退去」を求めた問題も明らかになっている。いずれも日本の主権への重大な侵害といえる。
政府が推進する「自由で開かれたインド太平洋」構想を取り上げたのは、自民党の野田聖子、世耕弘成の両氏しかいなかった。
学術会議をめぐっては、立民と共産党が会員候補の一部任命見送りの撤回を、日本維新の会が行政改革上の点検を求めた。
首相による任命権の行使は当然だが、どのような観点から判断したか、経緯についてはもう少し詳しい説明が必要だろう。
残念なのは軍事科学研究を否定し、防衛力向上を妨げている学術会議の安全保障上の問題点を改めようという議論がなかった点だ。同会議は平成29年の声明で、軍事科学研究を「絶対に行わない」とした過去の声明の「継承」を宣言した。侵略を防ぐ抑止力構築を否定するもので非常識に過ぎる。
日本と国民を守るための軍事科学研究は認め、日本に脅威を及ぼす中国や北朝鮮の軍事力強化に協力しない立場への改革こそ、国民のために国会は論じてほしい。
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2020年10月30日付産経新聞【主張】を転載しています