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岸田文雄首相の所信表明演説に対する衆参両院の代表質問が終わった。
論戦は経済対策が中心となったが、首相は所得税減税の具体的な中身を語らず、野党は「バラマキ」を競い合うなど、議論が深まることはなかった。
首相は所信表明に「所得税減税」を入れなかった理由について、「与党で正式な議論も開始されていない段階で、具体化の方向性を述べることは控えなければならない」と答弁した。所得税減税の効果などに疑問符がつけられる中、詳細を分かりやすく語るべきだ。
野党も人気取りに走っていては、信頼は得られまい。立憲民主党は「インフレ手当」の給付、日本維新の会は社会保険料の減免、国民民主党は所得税や消費税などの幅広い減税、共産党は消費税率の引き下げを求めた。世論の気を引くことに血眼になるのは、感心しない。
一方で、国の根幹をなす安全保障や憲法改正などを巡る論議はかすんだ。
イスラエルとイスラム原理主義組織ハマスの紛争やロシアのウクライナ侵略、これらが日本周辺に与える影響に関し、突っ込んだ論争はなかった。
中国が台湾併吞(へいどん)をにらみ軍事的圧力を強め、北朝鮮は核・ミサイル開発に余念がない。防衛力の抜本的強化について議論を尽くすべきなのは当然だ。
改憲については日本維新の会の馬場伸幸代表が、首相が来年9月までの自民党総裁任期中の実現を表明していることを踏まえ、果たせなかったら次期総裁選に再選出馬しない、と退路を断って取り組むよう迫った。
残念なのは、首相が所信表明で「条文案の具体化」に向けた議論を期待すると述べたにもかかわらず、自民の世耕弘成参院幹事長が改憲に触れなかったことだ。
世耕氏は首相の決断と言葉に関し、「いくばくかの弱さを感じざるを得ない」と苦言を呈していた。政治家にとって言葉は極めて大事である。それだけに、世耕氏も改憲の決意を語るべきだった。
立民の田名部匡代参院幹事長は「内閣が干渉すべきではない」と批判した。国会に議論を呼びかけることは、三権分立に反するものではなく、不見識だ。首相は自民総裁として指導力を発揮せねばならない。
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2023年10月27日付産経新聞【主張】を転載しています