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外国人の収容・送還に関するルールを見直す入管難民法改正案の参院審議が大詰めである。
不法残留する外国人を強制退去させることが難しく、入管施設での収容が長期化している現状を改める措置だ。残留目当てで難民申請を悪用することがないよう、無制限だった申請回数を原則2回にすることなどが柱である。
不法残留者であっても人権に配慮すべきは当然だが、その一部が治安を脅かしている現実から目をそらすわけにはいかない。厳正な出入国管理は国家の責務だ。
改正案は令和3年に一度、国会に提出されたが、野党の反発で廃案になった。改めて出された法案を再び先送りしてはならない。確実に成立させてもらいたい。
不法残留者は約7万人おり、約4千人が母国への送還を拒んでいる。このうち約1400人は逃亡中だ。入管施設から仮放免された者を除くと、4年末時点の長期収容者は約250人である。
難民申請の回数に制限を設けるのは、殺人などの重大犯罪者であっても申請中は国外退去させることができないからだ。難民を偽装して申請を乱発しないようルールを是正するのは妥当である。
収容の長期化を避けるため、本人の生活状況を報告する監理人を付けた上で施設外で処遇する監理措置制度も新設する。監理人は対象者の親戚などが想定される。
一時的に収容を解除する現行の仮放免制度は、身元保証人が法的義務を負わないなど逃亡防止が不十分だ。このため新制度は本人と監理人に届け出義務を課す。効果的に運用しなければならない。
改正案はまた、難民認定基準に満たなくても難民に準じた「補完的保護対象者」として在留を許可する制度導入を盛り込んだ。紛争地から逃れた人などが対象だ。ウクライナから避難した人は法相の裁量で特例的に定住資格を与えられている。だが、台湾有事の可能性などを見据えれば、避難民を確実に保護する法整備を進めておくことが重要だ。
忘れてはならないのが行政の責任である。名古屋市の施設でスリランカ人女性が亡くなった際には入管行政への信頼が失墜した。不法残留者の中には母国に送還されれば迫害の恐れのある人も当然いる。個々の実情をきめ細かく見極めて制度を運用する。法改正と同時にその点を徹底してほしい。
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2023年5月29日付産経新聞【主張】を転載しています