~~
韓国政府が、「北朝鮮人権報告書」を初めて公表した。
公開処刑や人体実験など凄惨(せいさん)な人権侵害の数々が記されている。恐怖政治をしく北朝鮮の人権侵害は決して許されないもので憤りを覚える。
報告書は韓国の北朝鮮人権法に基づく。2017年から毎年編纂(へんさん)されてきたが、対北融和を重視した文在寅前政権が公表を控えてきた。
尹錫悦政権が公式な文書として報告書を発表した意義は極めて大きい。
尹政権は北による韓国人拉致被害への対応も政権の重要課題に位置づけ、拉致問題に関する対話チャンネルの設置を日本に呼びかけてもいる。国民の身体や生命を守ることは政府が果たすべき最優先の義務である。日韓の連携が求められる。
日本と比べて韓国では北朝鮮による拉致被害が、南北対話の障害になるとして軽視されてきた。拉致問題に真摯(しんし)に取り組まなかった歴代政権の不作為は、韓国国民への背信行為といえる。
報告書では、公開処刑や人体実験のほか、韓国人拉致被害者や朝鮮戦争で捕虜になった韓国人とその子孫が過酷な労働を強制されるなど差別的に扱われている実態が詳述されている。
公開処刑では、15年に東部の元山で10代の青少年6人が韓国の映像を見たり、アヘンを使ったりしたとして死刑を宣告され、即、銃殺された事案が報告された。自宅で踊る動画が出回った妊娠6カ月の女性は、金日成主席の肖像画を指さすしぐさが「思想的に問題がある」とされ、死刑となった。
いずれも体制への忠誠を強いるための見せしめで、戦慄以外の言葉が見つからない。
公開処刑の存在は、西側の元外交官も証言している。平壌に計8年駐在したドイツの元大使は、北国内を旅行中、小さな町の入り口で半時間ほど車を止められた。公開処刑の実施が理由だった。
北朝鮮の人権状況をめぐる報告書は国連なども発表しているが、今回の脱北者508人の証言による1600件の侵害事例という大規模なものは例がない。体制に近い脱北者の証言もあるとみられ、貴重な資料といえるだろう。
尹政権は、報告書の英語版も発刊する。日韓は国際社会に結束と協力を呼びかけ、北への圧力を強めていく必要がある。
◇
2023年4月5日付産経新聞【主張】を転載しています