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参院憲法審査会で、ようやく実質的な審議が始まった。国会が1月に召集されたことを考えれば、始動が遅すぎる。会期末まで約1カ月半しかない。議論を加速させなければならない。
岸田文雄首相は9月末までの自民党総裁任期中の憲法改正を目指している。そのためには、改憲原案を完成させることが求められる。衆院憲法審で自民は、条文化に向け起草委員会の設置を求めている。緊急事態の際の国会議員の任期延長や自衛隊明記を想定したものだ。
参院では衆院に比べて議論が進んでいないのは明らかである。怠けていた側に歩調を合わせるわけにはいかない。衆院の議論に追いつき、協力して起草に動くべきである。
解せないのは、緊急事態条項の創設をめぐり、参院側で慎重論が唱えられていることだ。衆院憲法審では、自民や公明、日本維新の会などが議員任期延長の必要性を共有している。だが、例えば参院公明には憲法第54条で定める「参院の緊急集会」で対応することが可能との声もある。
第54条は、衆院解散から40日以内の総選挙を経て、投票日から30日以内の国会召集までに限り、内閣が緊急集会の開催を求められる規定だ。任期満了に伴う衆院選には対応できない。そもそも緊急集会は、大災害や有事が長期化し解散から70日を超えると存在すらしなくなる。
参院憲法審では立憲民主党の辻元清美氏が自民派閥の政治資金パーティー収入不記載事件に触れ、「(憲法論議は)選挙で選び直された議員で行うべきだというのが国民の多くの思いではないか」と述べた。このおかしな理屈を認めれば国会は重要な事柄を議論できなくなる。
辻元氏はまた、首相が条文化を促したことを「越権行為」と批判した。だが、首相は衆院で単独過半数を制する最大政党の総裁だ。内閣には、憲法第72条に基づき改憲原案を国会へ提出する権限もある。この批判も言いがかりに過ぎない。
衆院憲法審の与党筆頭幹事の中谷元氏は9日、起草委に関し「(立民から)設置できるという返事があれば設置したい」と語った。いつまで悠長に構えるつもりか。改憲を妨げるばかりの一部野党の動きに引きずられてはならない。
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2024年5月10日付産経新聞【主張】を転載しています