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中国軍が、米軍の艦船や航空機に対する挑発を繰り返している。
米海軍駆逐艦が6月3日、カナダ海軍のフリゲート艦とともに台湾海峡を航行中、中国海軍駆逐艦が追い抜き、約140メートルの至近距離で米駆逐艦の前方を横切った。米駆逐艦は減速し、かろうじて衝突を免れた。
米インド太平洋軍が「国際水域での安全な航行という海のルールに違反する」と中国軍を批判したのはもっともだ。一歩間違えれば衝突し、人命が犠牲になったり、軍事衝突に発展したりする恐れがあった。
中国外務省は「米国が先に挑発した。中国軍の取った対応は完全に合理的、合法的で安全だ」と反論したが詭弁(きべん)も甚だしい。危険な挑発をしたのが中国駆逐艦だったのは、米軍とカナダのメディアが公開した動画から明らかだ。
5月末には南シナ海の国際空域で、中国軍戦闘機が米軍偵察機の機首正面を横切り、飛行を妨害した。米軍公開の映像では、米偵察機のコックピットが大きく揺れていた。中国の戦闘機は約6メートルまで接近していた。中国はこのときも非を認めなかった。
台湾海峡も南シナ海も中国の専有物ではない。国際法に則(のっと)って航行したり飛行したりする権利はどの国にもある。国際法を守れないなら中国軍には世界の海や空で活動する資格がない。ルールを守れるようになるまで自国の港や飛行場に籠もっていたらどうか。
台湾海峡での挑発行為の翌日、中国の李尚福国務委員兼国防相は、シンガポールで行われたアジア安全保障会議(シャングリラ対話)で演説した。李氏は米国を念頭に「ある国」が、「アジア太平洋を分裂と紛争、衝突の渦に陥れようとしている」と訴えた。
だが、問題を起こしているのは中国自身ではないのか。
会議では、米中国防相会談が実現するか注目を集めたが、オースティン米国防長官の会談呼び掛けに李氏側は応じなかった。一方で、李氏は日本や韓国などの防衛相とは会談した。米国との扱いに差をつけることで、分断をはかる思惑もうかがえる。
オースティン氏が会談を呼び掛けたのは、中国側との偶発的な軍事衝突を回避するためにも、国防トップ同士の対話が必要と考えたからだ。中国軍は会談から逃げるべきではない。
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2023年6月7日付産経新聞【主張】を転載しています