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日銀が大規模金融緩和策の柱である長期金利操作の運用を柔軟化することを決めた。現在、0・5%程度としている長期金利の上限を維持しつつ、これを超えて1%まで上昇することも容認するという修正である。
日銀は市場から国債を大量に買い入れて、人為的に長期金利を抑え込んできた。その結果、本来は適正な金利水準を決めるべき市場の機能低下が懸念されてきた。こうした副作用の抑制が狙いである。
物価高騰に耐え得るほどの賃金上昇はまだ実現していない。日銀は粘り強く緩和を継続せざるを得ず、そのためにも副作用拡大への備えを万全にするのだという。
十分な賃上げを伴う形で持続的かつ安定的な物価上昇を果たすための現実的な判断なのだろう。
ただ、この修正はいかにも分かりにくい。金利を0%程度に誘導する緩和策の大枠は据え置き、そこからの多少の変動を認めるために設けられた0・5%程度の上限も維持したまま、新たに1%までの上昇を認める。金融政策としてあまりに複雑ではないか。
4月に就任した植田和男総裁の下で、日銀がより丁寧な情報発信に努めるべきは当然である。
今回の決定により、足元で上限の0・5%を下回る水準だった金利が上昇していけば、企業向け融資や住宅ローンなどの利回りが高くなる可能性がある。
日銀は、それが回復過程にある景気に及ぼす影響にもきめ細かく目を向ける必要がある。
日銀は従来、長期金利が上限の0・5%に近づくと、これを超えないよう市場で国債を買い支えて金利を下げてきた。今後は0・5%を「目途」と位置付ける。
植田総裁は記者会見で、「長期金利の形成をもう少し市場に委ねる」と述べた。また、日銀として1%までの金利上昇を想定しているわけではなく、「念のため」にキャップを設けたとしている。
金利上昇は経済活動や物価動向だけでなく、投機筋の攻撃で急騰する可能性もある。日銀はそうした動きに機動的に対応し、市場の混乱を避けなくてはならない。
米欧の中央銀行が今も利上げを続ける中、大規模緩和を維持する日本との金利差拡大を意識した円安圧力はなお強い。日銀は為替の変動にも十分な注意を払い、金利操作の運用を丁寧に進めることが重要だ。
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2023年7月29日付産経新聞【主張】を転載しています