大相撲秋場所千秋楽 貴景勝(左)が正代を押し出す
=9月25日、両国国技館(共同)
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大相撲秋場所は優勝争いが千秋楽までもつれた一方で、横綱・大関陣が早々と脱落した。とりわけ大関陣の不振は深刻というほかない。
6日目と9日目に1横綱3大関が総崩れし、両膝のけがで横綱照ノ富士が休場した10日目も3大関が敗れた。
37歳の平幕玉鷲が力強い取り口で優勝し観衆を沸かせ、関脇若隆景が11勝で来場所以降に大関取りの期待をつないだものの、明るい話題がかすむほどの大関陣の体たらくだった。
照ノ富士は場所後に手術を受ける可能性があり、長期の離脱もあり得る。大関陣の窮状が続けば、上位陣の空洞化は避けられず、このままでは国技の看板倒れという謗(そし)りを免れない。
番付の信用は揺らいでいる。日本相撲協会は強い危機感を持ち、打開策を講じるべきだ。
御嶽海は大関4場所目で関脇転落が決まった。現行のかど番制度となった昭和44年名古屋場所以降、史上4位の短い在位だ。正代は本場所が15日制となった24年夏場所以降の大関で、最速となる9日目での負け越しが決まった。
かつての大関は、横綱が振るわぬ場所で優勝戦線を盛り上げるのが役目だった。9勝6敗での勝ち越しが「クンロク大関」と揶揄(やゆ)された時代もあった。いまは、隔世の感を覚える。
協会が掲げた「土俵の充実」を図るには、何をおいても新型コロナウイルス禍における稽古のあり方を見直すことだろう。
現状では感染防止策として、本場所の約2週間前に行われる番付発表以降、出稽古は禁じられている。全力士が同じ条件とはいえ、本場所を迎えるまでの稽古の環境は十分とはいえない。
大関陣低迷との因果関係の有無にかかわらず、感染状況の推移などに応じた出稽古の緩和は、検討の余地があるのではないか。
角界全体の技量と力量の向上は取組の質を高め、ひいては大相撲の商品価値を高める。コロナ禍が落ち着けば、訪日客の観戦も増えるはずだ。「土俵の充実」は、日本の活性化につながるという視座を忘れてはならない。
大関陣の不出来は慢性化しており、負けても「波乱」とは呼べない。星取表の上位に黒星が並ぶさまは、土俵のあるべき姿にほど遠く、協会はファンの信頼を取り戻す処方箋を示してほしい。
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2022年9月26日付産経新聞【主張】を転載しています