米政府が孔子学院の監視強化に乗り出した。
孔子学院とは、中国政府が世界の大学などに設置している中国語などの普及を掲げる非営利教育機構のことである。
それが、教育機関に名を借りて、中国共産党による世界規模のプロパガンダ(政治宣伝)に使われているというのだ。
政治工作の拠点として、孔子学院をプロパガンダの資金源や運営方法の隠れ蓑(みの)にしているなら問題だ。学問の自由は大学教育の根幹にかかわる価値観である。学院の透明性確保を図るのは当然だ。
日本国内での孔子学院は、早稲田大や立命館大など15の大学に及ぶ。監視強化に本腰を入れ始めた米政府の動きを、日本でも真剣に受け止めるべきである。
ポンペオ米国務長官は8月13日の声明で、米国内の学院を統括する首都ワシントンにある孔子学院米国センターを大使館と同様の外国公館に指定すると発表した。孔子学院が、中国政府と中国共産党の宣伝工作部門から資金提供を受けていると判断したためだ。
学院の背後には、「漢弁(ハンバン)」と呼ばれる中国教育省傘下の組織があり、米連邦捜査局(FBI)の長官は2018年2月、学院が捜査対象であると証言している。
孔子学院は、世界各地の大学などに540カ所余が設置されている。全米奨学生協会によると、米国内には75あり、うち66が大学や短大に設置されている。
問題なのは、教員や教材が中国から提供され、受け入れ側に人事権やカリキュラムの作成権限がほとんどないとみられることだ。
米大学にある孔子学院では天安門事件、チベット、台湾などについて、中国政府の主張に沿った宣伝活動が行われ、学内での自由な議論が妨げられたとの批判も出ている。米国以外にもカナダや欧州の大学で、孔子学院を自主的に閉鎖するケースが相次いでいる。
日本の場合、法令による設置認可や届け出が必要ない。資金源や運営方法、授業内容をだれからも問われることなく、大学間協力で次々と設置されてきた。
忘れてならないのは、学院の設置が、大学構内に中国の出先機関を設けるに等しいという事実だ。将来を担う若者の健全な教育に関わる問題でもある。
文部科学省や外務省など、日本政府は実態把握に向け、早急に調査に乗り出す必要がある。
◇
2020年8月24日付産経新聞【主張】を転載しています