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アポロ11号の宇宙飛行士による人類初の月面着陸(1969年)から今年7月で54年になる。
人類が再び月に立つことを目指すなか、宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、新たな宇宙飛行士候補として世界銀行職員の諏訪理さん、外科医の米田あゆさんの2人を採用すると発表した。
日本の宇宙開発、とくに有人活動の新時代を切り拓(ひら)く活躍を、2人には期待したい。
向井千秋さん、山崎直子さんに次いで、女性では3人目の採用試験合格者となった28歳の米田さんは「道のりは簡単ではないが、可能であれば月に行きたいと考えている」と話した。
日本は米国主導の月探査「アルテミス計画」に参加し、2020年代後半に日本人飛行士初の月面着陸を目指す。基礎訓練などを経て正式採用された米田さん、諏訪さんが名乗りをあげる可能性は大いにある。
米田さんが向井さんにあこがれて宇宙への思いを深めたように、2人の活躍は宇宙開発の未来を担う若者を育む力になるだろう。
最年長での合格を果たした46歳の諏訪さんは、平成20年の前回募集(1次試験で脱落)からの再挑戦で夢を射止めた。その熱意と努力は宇宙飛行士を目指す人に勇気を与え、宇宙でも生かされるだろう。大いに称賛したい。
ただ、前回の挑戦時に30代前半だった諏訪さんは、再挑戦までに14年も待たされた。宇宙飛行士を職業として目指せるようにするには、採用間隔はもっと短く定期的であることが望ましい。
今回の採用では、学歴などの応募資格が大幅に緩和され、過去最多の4127人の応募があった。門戸を広げ多様な人材が宇宙飛行士を目指せるようになった意義は大きい。しかし、その門をくぐれる人数は限られる。
日本の宇宙開発は、衛星打ち上げや小惑星探査、国際宇宙ステーション(ISS)への物資輸送など無人の分野に重心を置き、有人活動は米国を中心とする国際協力プロジェクトに依存してきた。
自前の有人ロケットや宇宙船がないままでは、宇宙飛行士の門戸を大きく広げることはできないだろう。人類が月から火星に活動領域を広げ、民間人の宇宙飛行が一般化する時代は、そう遠くはない。日本の宇宙開発も「有人化」に踏み出す議論をすべきだ。
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2023年3月5日付産経新聞【主張】を転載しています