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宝塚歌劇団所属の25歳の俳優女性が9月に急死した問題で、歌劇団が外部の弁護士らのチームによる調査結果を公表した。遺族側は長時間労働と上級生からのパワハラが原因で自殺したとして謝罪と補償を求めていた。
歌劇団は過重労働は認めたが、いじめやパワハラは「確認できなかった」とし、双方の主張は大きく食い違った。遺族の代理人弁護士は事実認定と評価は不当として、再検証を求めている。
宝塚では音楽学校を卒業後、5年目までは劇団と雇用契約を結ぶ。6年目以降はフリーランス契約となるが実質は極めて拘束力が強い専属だ。女性は入団7年目で、下級生のまとめ役を任されていた。
業務は多岐にわたって多忙を極め、亡くなる前の1カ月間の時間外労働は、遺族側が277時間、弁護士チームは118時間と推計した。大きな開きがあるが、いずれにせよ、過労死ラインを大幅に超えていた。
歌劇団の木場健之(こばけんし)理事長は過重労働で強度の心理的負荷がかかっていたのに対策を取らず、安全配慮義務を果たしていなかったことを認め、謝罪した。あいまいな雇用形態で団員任せとしてきた無責任体質は改めなければならない。
女性が上級生からヘアアイロンを当てられ額にやけどを負った件は事実関係のみ認め、故意とは判断できないとした。
上級生による激しい叱責も「社会通念上相当な範囲内」と評価された。だが、ヒアリングを受けた人の多くは今も同じ組織にいて自由に口を開ける環境にはない。今回の調査がなぜ独立した第三者委員会ではなかったのか、という疑問も含め、証言の妥当性や透明性には大いに疑問が残る。遺族側が求める再検証は必須だろう。
公演回数を減らすなどの改革案は提示したが、養成機関である音楽学校から続く厳しい上下関係や組織風土の見直しには踏み込まず、再発防止への覚悟に欠けているのではないか。
将来ある若者の命が失われた現実は重い。悪(あ)しき伝統はなかったか。全ての問題を洗い出し再発防止を図らなければ世の理解は得られまい。宝塚歌劇は来年、110周年を迎えるが、伝統の宝塚は存亡の機にあると歌劇団も運営する阪急電鉄も自覚すべきである。
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2023年11月16日付産経新聞【主張】を転載しています