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日本相撲協会は弟子の幕内北青鵬の暴力行為に対する監督義務違反で、元横綱白鵬の宮城野親方2階級降格などの処分を決めた。宮城野部屋は伊勢ケ浜一門の預かりとなる。いわば、師匠失格の烙印(らくいん)が押された格好だ。
北青鵬の暴力は顔面や股間への平手打ち、殺虫剤のスプレーに点火した炎の放射、手指や財布への瞬間接着剤の塗布といった陰湿なもので、これを放置してきた親方に対し、協会が「師匠としての素養、自覚が大きく欠如している」と断罪したのは妥当である。
現役時代に史上最多優勝45回を記録し、先輩横綱朝青龍の引責引退後は一人横綱として角界を支えた宮城野親方の功績は大きい。一方で横綱の後半は、粗暴な取り口や振る舞いが何度も問題視された。多大な功績に対する遠慮が助長させた結果である。これ以上の甘やかしは、角界を滅ぼすことになる。
親方襲名時には「大相撲の伝統文化やしきたりを守る」と異例の誓約書に署名して承認されたが、師匠は部屋に同居するといった慣習も無視してきた。
今回の処分に協会の芝田山広報部長(元横綱大乃国)は「残した足跡は大きなものがあるから、今後頑張ってもらいたい」と述べた。
この期に及んでそんな気遣いはいるまい。降格で最下位の平年寄となる宮城野親方には、裏方仕事に懸命に汗をかく姿を角界内外に納得してもらうしか復活への道はない。
問題は宮城野部屋にとどまらない。部屋を預かる伊勢ケ浜一門の伊勢ケ浜親方(元横綱旭富士)自身も一昨年、弟子による暴力問題で理事を辞任した。
昨年は、陸奥親方(元大関霧島)が同様の問題で処分を受けた。元横綱貴乃花親方が弟子の付け人への暴力問題などで2階級降格処分を受け、角界を去った記憶も新しい。
師匠や兄弟子の暴力を「かわいがり」と称し、「無理偏に拳骨(げんこつ)」と書いて兄弟子と読ませた過去の「角界の常識」は「世間の非常識」である。「角界は特別」という甘えが協会全体に残ってはいないか。
宮城野親方は横綱時代、「相撲が終わるとき、この国も終わる」と強い決意を述べたことがある。今一度、この言葉を自身を含む角界全体でかみしめてもらいたい。
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2024年2月27日付産経新聞【主張】を転載しています