~~
韓国人元労働者らが日本企業に賠償を求めた「徴用工」訴訟で、韓国のソウル中央地裁は6月7日、原告の請求を却下した。
国際法に則(のっと)った常識的な判断である。問題を長引かせれば、韓国は常識外れの国という国際的な不信が増すだけだ。文在寅政権は自身の責任で早急に解決すべきだ。
ソウル中央地裁は、1965年の日韓請求権協定を踏まえ、賠償請求権は訴訟で行使できないと判じた。協定で両国の請求権問題は「完全かつ最終的に解決した」と明記されており、当然である。
協定は条約に相当し、請求を認めると条約順守を定めた国際法に反する可能性があるとした。賠償を認めて強制執行が実施され、外交問題に発展すれば、安全保障や秩序維持を侵害するとし、権利の乱用にあたるとも踏み込んだ。
約束を守るべきは司法に言われるまでもない。合意が反故(ほご)にされるのでは、信頼に基づく国家間の交渉や関係は成り立たない。
韓国では4月、元慰安婦らが日本政府を相手取った訴訟でも原告の請求を退ける判決が出た。国家は他国の裁判権に服さないとの国際法上の原則を守る常識に適(かな)った判決だ。それでも韓国が正気に戻ったと手放しでは喜べない。
そもそも「徴用工」訴訟をめぐっては、韓国最高裁が2018年に日本企業に賠償を命じる判断を示している。今回とは正反対であり、これが同種訴訟が相次ぐ要因となっているのだ。最高裁は法律に基づく徴用を「不法な植民地支配と侵略戦争遂行に直結した反人道的不法行為」と決めつけた。最高裁が史実を無視し、国際法を踏みにじる。法治国家として付き合うには不安定極まりない。
司法の暴走を助長したのは、文大統領自身である。韓国外務省は今回の判決後、「開かれた立場で日本と協議を続ける」などとしたが、解決済みの問題で日本が交渉に応じる余地はない。すべて韓国政府の責任と知るべきである。
韓国大田(テジョン)市に不法設置された、痩せてあばら骨が浮き出た「徴用工」像についても、韓国の裁判所が5月、「韓国人徴用工ではなく日本人をモデルに制作された」という主張に「真実相当性がある」と認定した。噓はだめだということである。
慰安婦問題とともに歴史の歪曲(わいきょく)を許さず、事実をもとに日本の名誉を守る発信も欠かせない。
◇
2021年6月9日付産経新聞【主張】を転載しています