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性同一性障害を巡り戸籍上の性別を変更する場合、生殖能力をなくす手術を必要とする法律の規定について、最高裁は「違憲」との初判断を示した。
4年前に最高裁は「合憲」としており、性別変更要件を緩和する転換である。今後の家事審判や法改正など影響は大きく、社会不安や混乱を招かぬよう対応すべきだ。
戸籍上は男性でホルモン治療などを行い、女性として暮らす人が性別変更を求めていた。
性同一性障害特例法では複数の医師の診断を必要とし、未成年の子がいないことなど5つの要件を満たせば家事審判を経て性別を変更できる。1、2審は生殖能力喪失の要件を理由に性別変更を認めなかった。
最高裁は精巣や卵巣をなくす手術は憲法13条が保障する「身体への強度の侵襲を受けない自由」を制約するなどとして違憲と判断した。性同一性障害の場合、もとの生殖機能で子が生まれる状況は極めてまれで、混乱は限定的とみた。
個人の人権をより重く考えた判断だが、社会生活を営む上で周囲の理解は欠かせない。
決定の補足意見には、生殖能力喪失に代わる要件を設けることを含め、立法府の裁量に委ねるとの言及もあった。法改正にあたっては多くの理解を得られるよう検討を重ねてほしい。
最高裁は変更後の性別の性器に似た外観を備える要件については高裁に審理を差し戻した。この問題は終わっていない。
LGBTなど性的少数者への理解増進法が成立したが、女性と自称する男性が女性専用スペースに入ることを正当化しかねないとの不安は拭えぬままだ。厚生労働省が公衆浴場で「身体的特徴」で男女を取り扱うことを確認する通知を出したのは、この不安の表れだ。
女性らの権利を守る団体など7団体は手術要件を外せば「社会的にも法的にも大変な秩序の混乱が起きる」とし、合憲判断を求める要請書を出していた。耳を傾ける必要がある。
自己申告による性自認と、医学的見地からの性同一性障害は明確に線引きし考える必要があることも改めて指摘したい。今回の「違憲」判断が強調されるあまり、「性別は自分で決められる」といった誤った認識や行き過ぎた性差否定教育につなげてはならない。
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2023年10月26日付産経新聞【主張】を転載しています