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人権侵害の温床と批判される外国人技能実習制度を巡り、政府の有識者会議が、この制度を廃止して新制度を創設することなどを盛り込んだ中間報告を近くまとめる。
制度創設30年で、ようやく人権問題を改善するための道筋をつけることになる。制度を抜本的に改革すべきは当然で、政府は人権を守る労働環境整備に万全を尽くさなくてはならない。
外国人実習生に対する暴行や賃金未払いといった過酷な現実の報告が後を絶たない。来日を斡旋(あっせん)する悪質な業者に高額の借金を背負わされる問題も指摘される。耐えかねて失踪する実習生も多い。
もちろん不当な事例は一部だろう。だが、問題の底流には、日本での技術習得や人材育成という制度目的とはかけ離れて、人手不足を補う安価な労働力確保に利用されるという現場の実態がある。
技術習得が名目なので実習先を原則として変更できない転籍制限もあり、逃げ場のない実習生が被害を受けている。制度に構造的な問題があるのは明らかだ。
有識者会議が示した中間報告のたたき台案は、制度の目的を人材育成としたまま実習生を労働者として受け入れるのは「望ましくない」として制度廃止を求めた。その上で、人材育成だけでなく人材確保も目的とする新制度創設を提言したのは理に適(かな)う。
さらに転籍制限の緩和を「検討すべきだ」とした。実習先を監督する監理団体については指導監督や支援が不十分だったとして、人権侵害や不適切な就労を是正できない団体を厳しく排除していく考えを示した。いずれも実効性を伴う形で具体化すべきだ。
一方、有識者会議は、高い技能や日本語能力のある外国人を受け入れるため平成31年に導入された特定技能制度は残すよう求めている。技能実習と特定技能の両制度では対象職種が対応していなかったが、これを揃(そろ)える方向だ。技能実習生が特定技能制度に円滑に移行できるよう整合性のある両制度の運用を図ることが望ましい。
米国務省の報告書が技能実習制度の人権侵害を指摘するなど海外の視線は厳しい。先進7カ国(G7)の議長国を務める日本が改善への明確な意思を示すことは重要だ。ただしこれは移民問題とは別である。社会を変質させる恐れのある移民受け入れへと安易に道を開かないようにすべきだ。
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2023年4月25日付産経新聞【主張】を転載しています