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先ごろ来日したドイツのショルツ首相と岸田文雄首相の首脳会談で、日独両国がサプライチェーン(供給網)の強靱(きょうじん)化など、経済安全保障を含む各分野での連携を強めることを確認した。
両国は「自由で開かれたインド太平洋」の実現や安保協力などで一致した。名指しこそ避けたものの、中国を念頭に置いた協力であるのは明らかである。
最大の貿易相手国である中国に偏っていたドイツのアジア政策の軸足が、日本に向かうことには重要な意義がある。
日本とドイツは、自由や民主主義、法の支配など普遍的な価値観を共有する友好国である。両国の関係強化を通じ、国際社会の平和と安定に貢献したい。
ショルツ氏の来日は昨年4月に続くものだ。今回は、外務、防衛、財務などの閣僚6人も同行させ、両国の首相と閣僚による政府間協議の初会合も開かれた。
ロシアによるウクライナ侵略を受け、ショルツ政権は強権体制のロシアにエネルギーを依存する危うさに直面した。同じ時期に政権内では、中国偏重だったアジア政策を見直し、日本との関係強化を求める声が上がり始めていた。
今回の政府間協議で両国は「経済的威圧や国家主導の不正な技術の獲得」へ対抗する方針で一致した。背景にはロシアと歩調を合わせ、覇権主義的行動を強める中国を供給網や商品の販売先として依存することへの危機感がある。
日独両国は中国への先端技術流出への懸念も共有する。ドイツでは産業用ロボット企業が中国企業に買収されたことをきっかけに、技術流出の問題が議論されるようになった。ドイツの経済団体は4年前、国内企業の中国依存を改めるよう提言している。
一方でドイツ自動車産業にとって中国は主要市場だ。両国経済の深い結びつきが簡単に変わると考えるのは早計だろう。ショルツ氏も中国共産党の習近平総書記が3期目入りを決めた直後の昨年11月に企業幹部らと北京を訪問し、経済協力の拡大で合意している。
中国が日独の連携を切り崩そうと攻勢をかけてくる事態も想定される。日本も欧州の経済大国であるドイツ重視の姿勢を鮮明にしていく必要がある。
岸田首相は政府間協議の枠組みを活用し、首脳や閣僚の相互訪問を活発に進めてほしい。
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2023年3月25日付産経新聞【主張】を転載しています