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宇宙航空研究開発機構(JAXA)の小型実証機「スリム(SLIM)」が1月20日未明、月面に着陸した。
旧ソ連、米国、中国、インドに続く5カ国目の月面着陸成功である。世界の宇宙開発において、日本の存在感を高める大きな一歩になる。
ただ、着陸後に太陽電池が発電せず、月面での活動時間は予定した数日から大幅に縮まった。JAXAの国中均・宇宙科学研究所長は「ぎりぎり合格の60点」と評価した。
スリムに期待されたのは、単に月面着陸を成功させることではなく、米国や中国、インドからも一目置かれる高い精度の着陸技術を実証することである。JAXAの自己評価で大幅な減点要因になった「着地の乱れ」を克服し、日本の技術力を世界に示してもらいたい。
スリムは、2つの新技術の実証を目指した。その一つは、着陸目標地点への誤差を100メートル以内に抑える「ピンポイント着陸」で「飛行データなどから、成功はほぼ確実」だという。
一方、月面の傾斜に沿って倒れ込むように着地する「2段階着陸」は、予定外の着地姿勢になって、太陽電池が発電しなかったとみられる。
ピンポイント着陸の詳細な成否判断には、約1カ月かかるという。着地の乱れの原因を究明し、再挑戦では完璧な着地を成し遂げてほしい。
従来の月面着陸では数キロだった着陸誤差を100メートルに縮め、平坦(へいたん)な場所を選ばずに「降りたい場所」に降りられる。スリムが実証に挑んだ技術は、無人機による月探査の可能性を広げるだけでなく、火星探査や有人宇宙船の安全性向上でも不可欠な技術になり得る。国際協力による宇宙開発で、日本が「必要とされる国」となるためにも、高精度の着陸技術を確立することは極めて重要だ。
アポロ11号による人類の月面着陸から3年後のミュンヘン五輪で、体操の塚原光男さんは月面宙返りで世界を驚かせた。半世紀余が過ぎた今でも、月面宙返りから派生した技が、各種目で演じられている。
スリムの着陸技術も、日本主導で進化させ長く宇宙探査を支える技術に育てたい。そのためにも、再挑戦の機会をできるだけ早く設け、着地をピタリと決めて世界を驚かせてほしい。
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2024年1月23日付産経新聞【主張】を転載しています