7月30日に亡くなった台湾の李登輝元総統の告別式が19日、台北郊外・新北市のキリスト教系大学内で行われ、日本からは森喜朗元首相ら、米国からは国務省ナンバー3のクラック次官らが参列した。
一方で、米台間の「弔問外交」に反発した中国は、台湾海峡付近で軍事演習を始めた。中国は緊張を高める行動を直ちにやめるべきだ。
クラック次官は18日、蔡英文総統から夕食会に招かれ、米台関係の深化をめぐり意見交換した。外交部長(外相に相当)や経済部長(経済産業相)とも会談した。
米国は8月、李氏死去後の弔問で閣僚のアザー厚生長官を派遣した。台湾海峡にイージス艦を派遣して台湾を守る姿勢を示した。ロイター通信によると、米国は台湾と巡航ミサイルや無人機などの武器売却の交渉を進めている。
中国共産党政権の覇権主義を抑え込みたい米国は、対中包囲網の一環として、自由と民主主義などの価値観を共有する台湾との関係を強化している。
台湾の国防部(国防省)によると、中国軍の戦闘機と爆撃機計18機が18日、台湾の防空識別圏(ADIZ)に侵入した。このうち過去最多の8機が、事実上の中台停戦ラインである台湾海峡の中間線を越えてきた。危険な軍事挑発というほかない。
米国と比べ日本の対応は十分とは言えない。李元総統の告別式に日本政府高官の姿はなかった。安倍晋三前首相が「日台の友好親善や台湾の民主主義と発展に多大な貢献をされた」とのメッセージを寄せ、日本弔問団を率いたのは森元首相だった。両氏とも日本政界の有力者で、そのメッセージや弔問を台湾側は歓迎しているとはいえ、現職の政府高官ではない。
日本は中国に対する配慮から訪台する政府高官の職位を自主規制してきた。だが、2017年に台北市内でのイベント出席のため赤間二郎総務副大臣(当時)が公務として訪台した前例もある。
菅義偉政権は、自由と民主主義を擁護するため、米台の連携関係に加わるべきだ。そのためにも時代錯誤の自主規制をやめ、閣僚や副大臣の派遣を行えばいい。
台湾に対する中国の軍事的挑発にしても、台湾の隣に位置する日本の安全保障を脅かすものでもある以上、日本政府はもっと明確に批判しなくてはならない。
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2020年9月20日付産経新聞【主張】を転載しています