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沖縄県が今年度から県庁に「地域外交室」を新設した。玉城デニー知事は、アジア太平洋地域の「平和構築に貢献する」といい、独自に外交を進めようとしている。
だが、外交と安保は国の専管事項だ。日本を取り巻く安全保障環境が厳しさを増す中、高度な情報分析と駆け引きを必要とし、地方自治体が勝手に「外交」をするのは疑問だ。政府方針と相反するメッセージを海外に発信すれば混乱を招き、国益を損なう恐れがあろう。
玉城氏は、県民生活の向上を図るという、知事本来の職務に専念すべきである。
玉城氏は7月上旬に交流目的で訪中することも検討しているが、不安を抱かざるを得ない。
中国の海警局船は沖縄の島である尖閣諸島(石垣市)周辺で領海侵入を繰り返している。
しかし、記者会見で玉城氏は、「(訪中時などに)抗議するつもりか」との質問に「日本政府がわが国の立場を繰り返し表明し、日中両政府においても協議していると承知している」と述べ、自ら抗議するとは明言しなかった。
あきれた認識だ。日本政府は中国の挑発行為に抗議しているのであって、「協議」はしていない。県も政府と連携し、あらゆる機会をとらえて抗議すべきだ。訪中時に何も言及しなければ、領海侵入などを容認したとも受け取られかねない。
玉城氏は昨秋の知事選で再選後、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設反対を国連で訴える意向を示し、地元紙のインタビューに「政府にカウンターパート(対応相手)を求めるより、世界に問題提起するほうが幅広いカウンターパートが現れる」と語っている。
自国の安保政策に外国勢力の介入を招く危険な発想といえよう。新設された地域外交室がこうした発想に基づくなら、平和構築どころか国防を危うくしかねない。
地域外交室は現在、基本方針を策定中だが、国際交流の域を出るべきではない。
そもそも沖縄県政は課題山積である。まずはコロナ禍で冷え込んだ県内経済の回復に全力で取り組むべきだ。台湾有事などに備え、県民の避難体制などを万全にすることも喫緊の課題であろう。
県は国と協力し、それぞれの役割を果たすべきである。
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2023年5月10日付産経新聞【主張】を転載しています