~~
地球温暖化防止を巡る国際的な取り組みが急加速しようとしている。
気候変動問題を重視するバイデン米大統領が、トランプ前政権下で離脱していた「パリ協定」に米国を復帰させ、温室効果ガス(GHG)排出の積極削減に転じたことによる変化だ。
排出量1位の中国と2位の米国を合わせると、世界のGHG総排出量の4割に達する圧倒的な量である。パリ協定の本来の目的は両国の参加にあった。それがようやく実現する。
大きな前進と歓迎したいところだが、それは甘い。日本にとってはより厳しい局面への移行と受け止めるべきである。国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP)に代表される温暖化防止の取り組みは、各国の国益がかかった経済戦争という、もう一つの側面を抱え持っているからだ。
バイデン氏の意向で、4月22日にテレビ会議での首脳会議(サミット)が開催され、温暖化防止対策が協議される。
米国はパリ協定離脱前に2005年比で25年に26~28%のGHG削減を表明していたが、サミットでは一段と高い目標を打ち出すことになるだろう。
皮肉なことに排出量の多い国ほど影響力が大なのだ。中国は30年まで排出量を増やし続けるという意味の削減目標を公然と掲げて、はばからない。周回遅れで参加した米国はコロナ禍からの回復を目指す世界的なグリーンリカバリーの中で、削減交渉の主導権を取ろうとしている。温暖化問題の草分けを自負する英国や欧州連合(EU)も負けじと脱炭素化のアクセルを踏み込んでいる。
日本は、削減目標値の高さ比べで、あおられてはならない。日本のGHG排出量は世界の約3%にすぎないからだ。先駆的な省エネ技術の導入で、国内の削減余地が少ない日本としては、目標値の高さではなく、実効性を重視すべきだ。進んだ石炭火力発電技術などを途上国に普及させれば、地球全体への貢献度は国内削減よりも格段に大きなものになる。
国際交渉に当たっては数値目標の呪縛からの自己解放が必要だ。菅義偉首相にはサミットで堂々と主張してもらいたい。温暖化問題で排出大国・米中の野合防止に働き、同時に途上国からの敬意を勝ち得よう。技術国・日本の進むべき道である。
◇
2021年3月14日付産経新聞【主張】を転載しています