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政府が目指す「観光立国」の実現に水を差しかねない事態だ。
円安を背景にインバウンド(訪日外国人客)の回復が続いている中で、全国各地の空港で航空燃料が不足し、増便や新規就航を見送る海外航空会社が相次いでいる。
経済産業省、国土交通省は石油元売り会社や航空会社などを交えた官民の特別チームを設け、6月から対策を協議している。早急に実効性ある対策を講じてほしい。
石油元売り会社は、石油製品の需要減少に対応して製油所の統廃合を進めてきた。
今のところ製油所の稼働率には余裕があるが、航空燃料だけを急に増産することは難しい。原油を精製してつくる石油製品はガソリン、灯油など複数の製品が一定の割合で生産される特性があり、稼働率を上げれば増産の必要がない石油製品も同時に生産されてしまうからだ。
製油所の集約に伴い、空港までの輸送距離が延びた影響も大きい。輸送船の確保が円滑に進まなかったり、4月に始まった残業規制でタンクローリーの運転手が不足したりして航空燃料の輸送に支障が生じている。空港で給油作業を行う作業員の不足も指摘されている。
短期的な対策として有効とされるのが、航空燃料の輸入である。石油元売り最大手のENEOS(エネオス)は需要に応えるため韓国や中国から輸入することを検討している。輸送手段として、化学製品を運ぶケミカルタンカーの転用が有効との指摘もある。
輸送を効率化するため、空港でのタンク増設や船の大型化など投資を伴う対策も必要だろう。政府や自治体の補助も検討したい。
航空燃料の不足は全国に広がっている。成田空港では現在、海外航空6社が1週間当たり計57便の増便や新規就航を希望通りの時期にできない状況にあるという。北海道や広島県などの空港でも増便できないなどの影響が出ている。
政府は令和12年に訪日客を6千万人と、元年の約2倍に引き上げる目標を掲げている。地方では、経済活性化の起爆剤としてインバウンド需要に対する期待も大きい。航空燃料の不足がその足かせとならないように、官民挙げて知恵を絞ってもらいたい。
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2024年7月10日付産経新聞【主張】を転載しています