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アラビア半島西側の紅海で、日本郵船が運航していた自動車運搬船がイエメンの親イラン武装組織フーシ派により乗っ取られた。
運搬船はバハマ船籍で英国企業の所有だ。日本郵船がチャーターしてトルコからインドへ向かっていた。
捕まった乗組員25人の国籍はブルガリア、ウクライナ、フィリピンなどで、日本人やイスラエル人はいなかった。イスラエルメディアは、イスラエルの実業家が船の所有に関係していると報じた。
フーシ派は「イスラエルの船」を「拿捕(だほ)」したとの声明を出した。イスラエルに関係する船は全て標的になると警告した。フーシ派はイスラエルのガザ地区攻撃に反発している。
どのような理由を掲げても民間船舶を襲って乗っ取ることは正当化できない。フーシ派はイエメン内戦の当事者であっても正統な政府ではなく、民間船舶を拿捕する権限などない。乗っ取りは非道なテロ行為だ。
松野博一官房長官が会見で、「拿捕」と呼んだのは解せないが、「断固非難する。関係国と連携して船舶および船員の早期解放のため取り組んでいる」と述べたのは当然だ。乗組員と船舶の解放に全力を尽くしてもらいたい。
イスラエルとイスラム原理主義組織ハマスの紛争が、世界経済の動脈である紅海に深刻な影響を及ぼした。しかも、日本企業の運航船が被害にあった。
フーシ派は、10月にイスラエルとハマスが激しい戦闘を始めてから、巡航ミサイルやドローン(無人機)を使ったイスラエル攻撃を試みている。米海軍の駆逐艦が紅海でこれらを撃墜している。
イスラエルのネタニヤフ首相は乗っ取りについて「イランによるもう一つのテロだ」と述べた。イランが乗っ取りを使嗾(しそう)した証拠はないが、軍事支援先のフーシ派に強い影響力があるのは間違いない。
日本はイランとの良好な外交関係を保ってきた。岸田文雄政権は解放や再度の犯行阻止に影響力を行使するようイランに強く働きかけるべきだ。
テロ行為の横行は認めがたい。紅海に展開する米軍などとの協力や、ジブチを拠点とする自衛隊を紅海の「航行の自由」確保に活用できるかの検討も始める必要がある。
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2023年11月21日付産経新聞【主張】を転載しています