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元日に石川県能登地方で発生した能登半島地震は、経済にも多大な影響をもたらす可能性がある。今後、物流の寸断や生産停滞などの混乱が広がれば、被災地だけではなく、日本経済全体にも打撃を与えよう。
企業活動を支えるサプライチェーン(供給網)は北陸を含む全国に張り巡らされている。地震国・日本の震災リスクはインバウンド(訪日外国人客)需要に影響するかもしれない。
こうした懸念をいかに払拭できるかが重要だ。国を挙げて震災からの復旧・復興に全力を尽くすことが、日本経済を力強く発展させる大前提であると、まずは肝に銘じておきたい。
長期停滞脱却を目指せ
経済全体を見渡せば今年は正念場の年である。岸田文雄首相は年頭所感で「日本経済を覆っていたデフレ心理とコストカットの縮み志向から完全に脱却する年としたい」と表明した。この問題意識は首肯できる。
日々の暮らしは維持できたとしても、さらに豊かになれるとは期待しにくい。それが多くの国民の実感だろう。バブル崩壊後の「失われた30年」とされる長期停滞だ。ここから真に脱却できるかが問われよう。
振り返れば、この30年で日本経済の存在感は低下した。国際通貨基金(IMF)は昨秋、2023(令和5)年の日本の国内総生産(GDP)がドイツに抜かれて世界4位になるとの予測を示した。ドルベースなので円安下にある日本の数値が目減りした面はある。それでも地位低下の趨勢(すうせい)に変わりはない。
日本は1人当たりGDPでも韓国などに迫られている。高齢社会が本格化している日本の場合、総人口ではなく生産年齢人口でみれば、1人当たりGDPの成長率は十分に高いとも指摘されるが、一方で働き手の現役世代には高齢社会を支える社会保障負担ものしかかる。こうした現実を直視し、経済再生を果たさなくてはならない。
カギを握るのが春闘などでの賃上げなのは論をまたない。これまで日本企業は人件費を抑えて製品やサービス価格を安くする経営が中心だった。今は幅広い品目の物価高が続く。人手不足も相まって賃上げ機運も高まった。安さを当然とする社会通念は揺らいでおり、物価高に負けない賃上げ実現でこの流れを確実にする必要がある。
特に中小企業の賃上げは重要だ。大企業と取引のある中小企業の中には、人件費や原材料費などのコスト上昇分を価格に転嫁できないところも多い。発注側の大企業が価格決定で優位に立つためで、これを放置すれば賃上げは広がらない。
公正取引委員会は昨年11月、発注側と受注側が定期的に人件費の価格転嫁について協議することなどを定めた指針を公表した。この順守はもちろん、賃上げ税制の拡充などの施策も十分に活用し、中小企業の賃上げを強く促していきたい。
緩和の「出口」は丁寧に
もう一つ、転機を迎えそうなのが日銀の金融緩和策だ。欧米の中央銀行はリーマン・ショックや新型コロナ禍で緩和策を実施したが、いずれも危機後、利上げに転じた。その間、一貫して大規模緩和を続けてきたのが日銀である。緩やかな景気回復はあっても力強い成長は見込めないという、日本特有の軛(くびき)から逃れられないためである。
だが、最近の物価上昇率は日銀の2%目標を超えており、長期金利にも上昇圧力がかかっている。マイナス金利政策解除など緩和策の本格的な転換を予測する声は多い。市場機能が歪(ゆが)む緩和の副作用なども勘案し、日銀が正常化への出口戦略を検討するのは当然の流れだろう。
その際には丁寧な判断が求められる。日銀は賃上げ動向を見極めて政策転換を判断する構えだが、再びデフレに戻る恐れはないか。日銀と併せて政府もデフレからの完全脱却を宣言するのか。こうした点での政府・日銀の意思疎通は欠かせまい。
大規模緩和からの転換で「金利のある世界」になれば、企業の借入金利は上昇するが、結果として企業の新陳代謝が促されるかもしれない。大事なことは経済や金融環境の変化に民間企業がどう対応するかである。
賃上げなどで優秀な人材を集めるのもそうだ。デジタル化や省力化投資で労働生産性を高めたり、成長分野に積極的に投資したりすることも望ましい。そうした民間主導の取り組みが、新たな経済の好循環につながることに期待したい。
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2024年1月7日付産経新聞【主張】を転載しています