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国民を守るための銃が味方に向けられた。まさに、あってはならない事件である。なぜこのような事件が発生したか、検証の徹底が必要だ。
岐阜市の陸上自衛隊日野基本射撃場で自衛官候補生の18歳の男が訓練中に自動小銃を隊員に向けて発砲し、2人が死亡、1人が負傷した。死傷した3人は、いずれも候補生の指導的立場にあった。
陸自トップの森下泰臣陸上幕僚長は「このような事案は武器を扱う組織として決してあってはならない」と述べ、謝罪した。陸自は調査委員会を設置し、岐阜県警の捜査とともに原因を究明する。
発砲当時、射撃場では自衛官候補生約70人と教官ら指導部の自衛官約50人が参加し、射撃訓練が行われていた。男は訓練が始まった直後に銃を撃ったとみられる。
射撃訓練では通常、候補生一人一人に指導役の隊員が付き、銃を構え、安全確認を行った上で、射撃の直前に銃弾が渡される。
銃器の取り扱いには二重三重の安全機構が働き、銃口を人に向けてはならないことは、しつこいほどに徹底される。
だがこれらは事故防止のためのもので、悪意の発砲を防ぐための措置ではない。男は岐阜県警の調べに、死亡した52歳の教官に叱られたという趣旨の供述をしているという。
発砲が故意のものであれば、現実には防ぎようがない。隊員らが防弾ベストを着用していなかったことについても同様で、全く責められない。
動機が恨みだったとして、その詳細については陸自と県警の調査や捜査の結果を待つしかない。訓練には一定の厳しさが必要だが、そこに理不尽なものがあれば、これは組織の問題である。
だからこそ、検証の徹底が求められているのだ。
事件を受け、全国の陸自施設での射撃や爆破の訓練は一時中止されている。だが、これらの訓練は有事に臨むにあたって必要不可欠であるからこそ実施している。過度な萎縮や自粛は、新たな事故を呼びかねない。
防衛省自衛隊は今回の発砲死傷事件を重く受け止め、原因究明と再発防止に取り組むとともに、本来の任務である国と国民を守る態勢をいち早く立て直さなくてはならない。そのための通常訓練の再開も急ぐべきである。
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2023年6月16日付産経新聞【主張】を転載しています