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韓国の最高裁で、注目される判決が相次いだ。誤りは正す。盗んだものは返す。そうした真っ当な判断が定着することを望む。
一つは、学問や表現の自由にかかわる裁判だ。慰安婦問題に関する著書『帝国の慰安婦』で名誉毀損罪に問われた朴裕河・世宗大学名誉教授の上告審判決で、韓国最高裁は、有罪の罰金刑とした2審判決を破棄した。
その上で「学問的主張または意見表明と評価するのが妥当」とし、「無罪の趣旨」で審理をソウル高裁に差し戻した。
同書は帝国主義時代に慰安所が世界各地にできた歴史的背景や多様な境遇にあった慰安婦の実態を踏まえた学術書だ。
韓国では慰安婦を強制連行された「性奴隷」とする虚偽がまかり通り、言論界も異論を唱えにくい中で書かれた。この著書が罪に問われては学術研究を支える自由な議論はできない。
もう一つは、盗難の罪を巡る訴訟だ。長崎県対馬市の観音寺から盗まれて韓国に持ち込まれた仏像について、韓国最高裁は観音寺にその所有権があることを認めた。
仏像は2012年に盗まれ、翌年、韓国の警察による韓国人窃盗団の摘発で仏像が回収された。ところが韓国の寺が、数百年前に倭寇(わこう)に略奪されたとして所有権を主張し、像を保管する韓国政府に引き渡しを求める訴訟を起こした。
1審は韓国の寺の請求を認めた。盗まれたものを持ち主に返す常識さえ通らない。
背景には朝鮮半島由来の文化財について「日本に略奪されたものだから返さなくていい」と、返還を拒む運動があった。だが日韓関係正常化に伴う協定で、こうした文化財の問題も解決済みである。
今回の判決を受けて韓国政府は、関係法令に従って返還手続きを行うとしており、盗まれた仏像はようやく日本に戻る。
韓国では法より反日世論に迎合する「情治」の問題が指摘されてきた。司法がその歯止めをかけないばかりか、国際法や常識を無視した判断が頻発し、政府も司法に転嫁してきた。
「徴用工」問題がこじれたのもそのためだ。
尹錫悦大統領は日韓関係重視の政策を進めている。冷静で正常な司法判断は、その一助ともなるはずだ。
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2023年10月28日付産経新聞【主張】を転載しています