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日本の主力大型ロケット「H2A」47号機が7日、種子島宇宙センター(鹿児島県)から打ち上げられ、日本初の月面着陸を目指す小型実証機「スリム(SLIM)」と天文衛星を予定の軌道に投入した。
H2Aとしては41機連続の打ち上げ成功だが、日本の宇宙開発は厳しい試練の渦中にある。
国産ロケットは昨年10月に小型の「イプシロン」6号機、今年3月には次世代大型ロケットの「H3」初号機の打ち上げに失敗し、7月には次世代小型ロケット「イプシロンS」のエンジン燃焼試験で爆発事故が起きている。
一方、世界的にも高い信頼性を誇るH2Aは50号機での運用終了が決まっており「引退」まで残り3機となった。47号機の成功を手放しで喜んではいられない。
失敗と事故の原因を徹底的に究明したうえで、H2Aで積み上げてきた成功のエッセンスを後継機に引き継ぎ、改めて国際的な信頼を獲得しなければならない。そこまでが国産ロケットの正念場である。
世界の宇宙開発も大きな転換点にある。8月には日本の「スリム」に先んじて、インドの探査機が月面着陸に成功し、旧ソ連時代に成功実績があるロシアは失敗した。中国の台頭と米スペースX社をはじめとする民間の急成長で、宇宙をめぐる主導権争いは顔ぶれが変わって複雑化し、激しさを増している。
安全保障の観点からも、拡大が見込まれる宇宙ビジネスで実利を確保するためにも、日本は世界の先頭グループに喰(く)らいついていかなければならない。
その意味では、来年1、2月ごろになるスリムによる月面着陸への挑戦も重要だ。
インドに抜かれたとはいえ、旧ソ連と米中印に次ぐ5カ国目の成功国になりたい。スリムは、目標地点から誤差100メートル以内のピンポイント着陸を目指しており、この技術を実証、確立すれば誤差数キロ以上とされる先行の4カ国に対しても、大きな存在感を示せる。高精度の着陸技術は、将来の有人火星探査などにも生かされるだろう。
宇宙開発のあらゆる分野で米国や中国と拮抗(きっこう)する力を持つのは難しい。だが、他国からも必要とされる技術を日本が持つことはできるはずだ。
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2023年9月9日付産経新聞【主張】を転載しています