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日本のスポーツ界に求められているのは決して難しい判断ではない。
ウクライナへの侵略と同国内での戦争犯罪を重ねるロシアを、全ての国際舞台から排除する。その一点での結束を、世界のスポーツ界に呼びかけることだ。
いま救わなければならないのは、ロシア選手の権利ではない。この瞬間も自由を抑圧され、命の危険にさらされているウクライナの人々である。
ウクライナ・オリンピック委員会が、国際オリンピック委員会(IOC)や各国・地域オリンピック委員会に宛てて、ロシア選手らの除外継続を求める書簡を送った。日本オリンピック委員会(JOC)も受け取ったことを認めているが、いまだに行動を起こしていない。どういう了見なのか。
山下泰裕会長の危機意識の乏しさは相変わらずだ。2月14日の定例記者会見で「世界の国々が納得できる形を慎重に議論していかないといけない」と述べ、ロシア勢らの復帰を検討するIOCの方針には賛意を示した。
ウクライナの惨禍を直視しているとは思えない。IOC委員でもある山下氏の言動は、日本スポーツ界の総意と受け取られかねず、極めて問題のある態度だ。
体操とレスリングのロシア連盟会長は、中国・杭州で開かれるアジア大会(9~10月)に出場の招待を受けたという。同大会を統括するアジア・オリンピック評議会の前傾姿勢を、IOCは歓迎している。来年のパリ五輪参加に道を開く意図が見え見えの、あまりに強引な地ならしである。
山下氏の認識では、採点競技や記録を争う競技で、順位をつけない形での受け入れが検討されているという。仮に対人競技のレスリングが含まれるなら、ロシア勢の勝敗が大会の結果を変える。話が全く違うではないか。情報収集という点でも、JOCの無能ぶりを証明することになろう。
そもそも、アジア大会を復帰の舞台に利用させてはならない。IOCは既成事実をもってウクライナの抗議に蓋をしようとしている。自由や公平公正を前提とするスポーツの自殺行為だ。
パリ市長はパリ五輪へのロシア勢参加を拒む意向を表明した。JOCが指をくわえて成り行きを見守ることは許されない。山下氏ができないのなら、他の人々が代わって行動を起こすべきである。
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2023年2月22日付産経新聞【主張】を転載しています