~~
世界的な半導体メーカー、台湾積体電路製造(TSMC)が熊本県に第2工場を建設することになった。
工場を運営するTSMC子会社「JASM」にはトヨタ自動車も出資し、令和9年中の稼働を目指す。
半導体は自動車や家電など多くの工業製品に使われるだけでなく、国家安全保障にも関わる戦略物資である。
台湾は半導体生産で世界の先頭を走っている。台湾有事があれば日本の調達にも支障が出かねないだけに、国内に有力な生産拠点を誘致し、サプライチェーン(供給網)を強(きょう)靱(じん)化することには大きな意義がある。
かつて世界を席巻した日本の半導体は長期的な低落傾向が著しい。政府は巨額の補助金を用意してTSMC誘致を進めてきた。これを足掛かりに国内の技術と人材の集積を図り、半導体産業の底上げにつなげたい。
TSMCは現在、熊本県に同社初となる日本工場の建設を進めており、年内に量産を始める予定だ。第2工場では回路線幅6ナノメートル(ナノは10億分の1)という先端半導体などの生産を予定している。第1工場と合わせた総投資額は200億ドル(約3兆円)超となる見通しだ。
先端半導体は成長が期待される人工知能(AI)や車の自動運転などにも必要とされる。日本には、第2工場で計画されるような先端半導体を生産できる拠点はほかにない。
巨額補助金を出す以上、政府はTSMCに長期の事業継続だけでなく、日本向けの優先供給なども求める必要がある。
事業撤退や縮小を繰り返してきた国内半導体メーカーでは多くの人材が流出し、技術力を失った。ただ、国内にはなお半導体製造装置や半導体材料で高い競争力を持つ企業が多い。こうした産業基盤を生かし、先端技術の蓄積につなげるべきだ。
半導体産業の復興を見据えた人材の育成も欠かせない。熊本大学など半導体の研究開発に力を入れる大学や高専が増えている。産官学が連携し、息の長い取り組みにする必要がある。
TSMCが熊本への進出を決めたのは、半導体生産に不可欠な水資源が豊富なことも大きかった。ただ、地元には半導体生産が環境に及ぼす影響を懸念する声もある。TSMCはこうした不安に真摯に応え、環境保全にも万全を尽くしてほしい。
◇
2024年2月8日付産経新聞【主張】を転載しています