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自らの個人情報は適切に守られているのか。そんな疑念を利用者に抱かせる情報管理である。
無料通信アプリ「LINE(ライン)」利用者の個人情報が、中国の関連会社で閲覧できる状態になっていた。
国家がデジタル情報を集め、統制を強めているのが中国だ。平井卓也デジタル改革担当相が中国で閲覧可能だったことを「大変脅威に思う」と述べたのは当然である。
中国への情報漏洩(ろうえい)リスクを過小にみていたのなら甘すぎる。LINEアプリは国内で8600万人以上が利用し、公共サービスにも使われる社会的なインフラだ。その自覚を疑わざるを得ない。
総務省や一部自治体がLINE利用を停止するなど混乱も広がっている。政府の個人情報保護委員会は、個人情報保護法に基づきLINEなどに強制的に情報提供を求める報告徴収を行った。総務省も同様に報告を求めている。
実態をつまびらかにし、厳しい管理態勢を確立できたと利用者に理解されない限り、不信感は拭えまい。LINEはそのことを厳しく認識すべきである。
中国の関連会社の技術者4人が名前や電話番号、メールアドレスなどを閲覧できた。中国にある別の法人には不適切な投稿などの監視業務が委託されていた。韓国の関連会社のサーバーには画像データなどが保管されていた。
LINEによると、情報漏洩などはなく、閲覧可能な状態も解消したという。利用者には「説明が不十分だった」と謝罪した。
個人情報保護法は、情報の国外移転や外国での閲覧などには利用者の同意が必要としている。加えて個人情報保護委員会は移転先の国名を規約などに記すよう求めている。LINEが利用者に示した指針には具体的な国名の記載がなかった。これでは中国での閲覧を了解していたことにはならず、十分な同意とはいえまい。
国境を越えたデータの自由な移動はデジタル社会に不可欠だ。ただし、その前提は個人情報の適切な保護だ。デジタル覇権や監視社会を追求する中国への情報流出が国際社会から警戒されていることを忘れてはならない。
デジタル業務の海外委託のリスクは、あらゆる企業が留意すべきことだ。LINEに限らず、情報保護に不備はないかを絶えず精査しておくことが肝要だ。
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2021年3月22日付産経新聞【主張】を転載しています