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先進7カ国(G7)外相会合の東京での開幕に合わせて、欧州連合(EU)の外相に当たるボレル外交安全保障上級代表が11月7日、産経新聞の書面インタビューに応じた。パレスチナ自治区ガザ情勢を巡り、人道支援のために戦闘を中断すべきだと訴えた。中東安定には「イスラエル、パレスチナの2国家共存が唯一の道」だとして、G7議長国・日本に和平プロセス再開に向けた協力を求めた。
ボレル氏は、イスラエルとイスラム原理主義組織ハマスの衝突で「EUの立場は明快だ。ハマスの無差別テロを可能な限り強い言葉で非難する」とし、ハマスは人質を無条件で即時解放すべきだと主張した。イスラエルに自衛権があると認めた上で「国際法と人道法に沿って行使せねばならない」と要求。ガザに支援物資を届け、人質を避難させるため、「戦闘中断と人道回廊の設置が必要だ」と述べた。G7会合を前にEUがガザへの人道支援を増額し、今年の総額を1億ユーロ(約160億円)としたことに言及した。
ボレル氏はまた、パレスチナ自治区では「ヨルダン川西岸にも暴力が広がっている」として、地域情勢の不安定化を警戒した。「EUは日本、国際社会のパートナーと共に、2国家共存の政治プロセスを再生させることを目指す」として、G7の役割に触れた。日本が議長国としてさまざまなG7協議の場を設けたことで、「連携し、情報を共有することができた」と謝意を示した。
インド太平洋を巡っては、中国の台頭を念頭に「地政学的競合が激しくなり、貿易やサプライチェーン(供給網)に緊張をもたらしている。安全保障状況を悪化させている」との見方を示した。EUは日本など、価値観を共有するパートナー国との協力を強めると意欲を示し、艦船派遣などで地域の安全保障に貢献する方針だと述べた。
中国を「競合相手」と位置付けながら、政治、経済のリスク軽減を原則として対話を続けると主張。気候変動や途上国の債務問題などの課題をあげた。EUと日本の連携の必要性に触れ、台湾を巡り「一方的な現状変更は受け入れられない」という立場を共に主張し続けるべきだとも訴えた。
ロシアのウクライナ侵略を止めさせるため、EUと日本が中国に影響力行使を求める重要性に言及。ウクライナ支援についてEUは「必要な限り続ける」と強調し、軍備供与や軍事訓練のほか、防衛産業の協力などを進めていると述べた。
書面インタビューの要旨は以下の通り。
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--ガザ紛争で先進7カ国(G7)の役割は
「イスラム原理主義組織ハマスによるイスラエル攻撃後、G7議長国としての日本の対応を評価する。さまざまな協議を通じて連携し、情報共有することができた。国際社会は結束し、中東安定のために取り組むべきだ。イスラエル、パレスチナ2国家共存が唯一の道だ。EUは日本、さらに国際社会のパートナーと協力し、2国家共存の政治プロセスを再生させたい」
--EUの主張は
「EU首脳会議はハマスの無差別テロ攻撃に対し、可能な限り強い言葉で非難した。イスラエルには自衛権があり、それは国際法と人道法に沿って行使されるべきだとした」
「われわれは人道状況の悪化を懸念している。暴力はパレスチナ自治区のヨルダン川西岸にも広がっている。支援物資を安全にとどけるために、戦闘中断と人道回廊の設置を求める。民間人保護は優先課題だ」
--インド太平洋について
「インド太平洋では地政学的競合が激しくなっている。貿易やサプライチェーン(供給網)に緊張をもたらし、地域全体の安全保障状況を悪化させている。EUは価値観や利益を共有するパートナーと協力を進める。艦船派遣などの追加的対応も視野に入れている」
「EUは外交や経済でリスクを軽減する方針に沿って対中関与を進める。気候変動や感染症対策、途上国の債務軽減については、中国と共に取り組むべきだ」
--ウクライナ支援では
「EUはウクライナに対し、必要な限り支援を続ける立場を明確にしている。先月、キーウで初のEU外相会合を開き、ゆるぎない決意を示した。軍備供与や軍事訓練、防衛産業の協力など、ウクライナの長期的な安全保障についても取り組みを進めている」
筆者:三井美奈(産経新聞)
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■ジョセップ・ボレル スペイン出身。2004~07年、EU欧州議会議長。欧州大学院学長、スペイン外相を歴任し、19年にEU外交安全保障上級代表に就任。76歳。